投稿日 : 2020.02.28

【東京・渋谷】怪しい路地に潜む “昭和スナック”のようなレコードバー

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

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いつか常連になりたいお店 #46

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、近年じわじわと盛り上がりを見せつつある、渋谷百軒店にて2018年12月にオープンした『RECORD BAR analog(レコード バー アナログ)』を訪問。ここは夜になるとみんなが集まってくる、オシャレな友だちの家みたいな空間でした。

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アンダーグラウンドな渋谷百軒店が変わり始めている

道玄坂エリア(東京・渋谷)のなかでも、とくに怪しい雰囲気をまとっている渋谷百軒店(ひゃっけんだな)。この地は1920年代に名店街として栄えるも、1945年の東京大空襲で全焼。その後復興し、1964年の東京オリンピック前後に大きな賑わいを見せた。だが、1970年代以降は西武や東急による宇田川町エリアの再開発により中心地から陥落。同時期にジャズ喫茶が並ぶエリアとなったが、次第に風俗や裏スロットといったアンダーグラウンドなイメージが色濃くなっていく。

しかし、近年は店舗型風俗の衰退や取り締まりもあってテナントが入れ替わり始め、飲食店を中心に再び活気を取り戻し始めている。いまだアンダーグラウンドな空気は残るが、健全そうな若い女性グループが笑顔で行き交うなど、不思議な混沌が生まれ始めている注目スポットなのだ。

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昔から音楽との親和性が高いお店が多いエリア

前置きが長くなってしまったが、そんな程よく怪しい場所に『RECORD BAR analog』はある。道玄坂から入り、『名曲喫茶ライオン』やロック喫茶『B.Y.G』を抜けた千代田稲荷神社の隣にある雑居ビル3F。向かいには外国人に人気のクラフトビール店『Mikkeller Tokyo』もある。

「渋谷百軒店は最初から狙っていました。一般のお客さんも増えていますし、昔から音楽との親和性が高いエリアだったというのもあります。自分としては慣れ親しんでいるエリアでもある。こういう場所にあったら面白いかなって」と、店主でありディレクターの松鶴隆弘さんは語る。

店内に入ると正方形の空間が広がり、奥には音響機器とバーカウンター。中央にはお客さんが自由に閲覧できるレコードラックがあり、それを囲むようにソファ席が並べられた開放的な雰囲気だ。

「内装は昭和のスナックを少しイメージしました。色はあまり使わず、青・グレー・銅で統一しています」

パッと見は薄暗くシンプルでおしゃれな空間だが、言われてみればどことなく昭和の香りが漂う。その有機的な空気が居心地の良さにもつながり、テーブルごと客層は違っても独特の一体感が生まれていく。

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クラブ遊びがきつくなってきた大人たちの遊び場

1985年生まれの松鶴さんは、音楽好きがこうじて大学時代に代官山のクラブ『AIR』でアルバイトをスタート。そのまま同店で働き続け、渋谷のクラブ『VISION』の立ち上げを機に転職して店長を務めた。その後、企画の部署に移動し、2017年にイベント会社を立ち上げ独立。2018年12月にこの店をオープンさせた。

「自分はいまでもクラブ業界に関わっていますが、かつての遊び仲間は家庭を持ったり、環境の変化で朝まで遊べなくなった。それならば、音楽を楽しみながら美味しいお酒が飲める、大人の遊び場を作ろうと考えたんです。それが最終的にレコードバーというカタチになりました」

『RECORD BAR analog』がユニークなのは、リクエストしたい曲をお客さん自らが中央のレコードラックから選べるという点。

「レコードを掘っているとき、探しているものとは違うアルバムに手が止まる瞬間がありますよね? 発見というか、”あっそうだ、コレコレ!” みたいなテンションのあがり方(笑)。あの興奮を楽しめたらと思ったんです」

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懐かしの名曲から、最新の名曲までを網羅

店内には大きく分けて、R&B、ネオソウル、シティポップ、世界のポップスといった4カテゴリーのレコードが置かれてる。ジャズやロックも少量ながらある。

「新譜を入れているのが大きな特徴かもしれません。約1年間営業してわかったのは、00年代前後のR&B系J-POP人気の高さです。宇多田ヒカル、MISIA、ACOなどは、若い世代から年配のお客さんまでみんな大好きですね」

レコードラックから好きな盤を選んだら、ブースの前にいるスタッフに手渡し。すると、曲の流れを踏まえた適切なタイミングでかけてもらえる。R&B系以外では、山下達郎、大貫妙子、竹内まりやといったシティポップ系も不動の人気だ。

「外国人のお客さんは、ファーサイドやア・トライブ・コールド・クエストなどの90年代ヒップホップを持ってこられることが多いです。レコードバーでヒップホップが流れるのは珍しいかもしれません。新譜だとiriやSTUTSあたりが、”置いてるんだ!”って感じで若い子に喜ばれます」

一般的にレコードバーやミュージックバーといった場所は、店主の趣味が色濃く反映されるもの。もちろん、『RECORD BAR analog』にもその土台はあるのだが、お客さんの好みにじんわり合わせていくというスタンス。それはクラブというオープンな場所で長く働いてきた松鶴さんならではの個性なのかもしれない。

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いい音、いい酒、いい出会いが生まれる場所

「時代を超える名曲はもちろん、現在進行形の音楽にもいい曲はある。50~60代の人が懐かしがる曲を、20代の子が新鮮に感じたり。その逆も然り。みんなが思い思いに過ごしながらも、別のグループが意図しない曲に反応しているときが面白い。サブスクのリコメンドにはない、突発的な出会いが楽しいんですよ」

混雑時のエクスキューズのため、建前上リクエストはひとり1曲。通常は、客層を見ながら各テーブルが好きそうなものをスタッフが選曲していく。DJ MIXはしない。それを鳴らすのは、アルテックのスピーカーA7。アンプは1569A、プリアンプは1567Aとこちらもアルテック。ターンテーブルにはガラードの301が使われている。

「1960~70年代の機材で統一しています。そこには、レコード時代の純正の音響で現代の音を鳴らしたいという思いがありました。音質に関しては、大音量でかけてもうるさく聴こえない点を重視しています」

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チャージは500円。ドリンクはうすはりグラスに入れられ、氷には純氷が使われるなど、大人のバーとして納得の内容。中央に置かれたスナック類はフリーとなっている。男性客が多めのお店だが、最近は女性誌に掲載されることも増え、女性グループも増え始めているとか。外国人観光客の姿もよく見かける。

「口コミ的にお客さまが増え、最近は常連さんもでき始めてきました。今後は、ツーリストの間で、”東京で遊ぶなら『RECORD BAR analog』に行ったほうがいいよ”と言われるような、東京の夜を象徴する空間になれたらと思います」


・店名 レコード バー アナログ
・住所 東京都渋谷区道玄坂2-20-9 柳光ビル3F
・営業時間 20:00~27:00
・定休日 不定休
・電話番号 03-6416-1228
・オフィシャルサイト https://analog-recordbar.com/

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