投稿日 : 2020.07.24

【東京・恵比寿/BAR B-10】新しいのに時代を感じる、レコードとお酒の部屋

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

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いつか常連になりたいお店 #48

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、楽曲の雰囲気に合わせ、3台のモノラル・スピーカーをスイッチしながら鳴らすバー『BAR B-10』を訪問。オープンしたばかりなのに居心地の良い空間づくりは “あの恵比寿の名店” 由来のものでした。

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昔からそこにあったような、がキーワード

渋谷駅からJR山手線でひと駅という立地ながら、オフィス街と住宅街を抱える落ち着いた雰囲気が魅力の恵比寿。西口エリアは飲食店も多く、社会人を中心に賑わっている。そんな人気スポットに、2020年6月1日にオープンしたのが『BAR B-10』だ。恵比寿南交差点、五叉路の小道を入った雑居ビルの3F。ゆえに、階段をひとりで昇り、初めて扉を開けるときは少々緊張してしまう。しかし、店内はカウンターを中心としたレイアウトで、夜風が通り抜ける窓もあり、席に座った瞬間から不思議なほど馴染めてしまう。

「新しいお店ではありますが、内装や空間は、昔からそこにあったかのようにしたかったんです」と語る、店主の奥 慎二さん。

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奥さんがそう思うきっかけとなったのは、東京を代表するミュージックバー『BAR TRACK』の存在が大きい。かつて、恵比寿にある同店の近くに住んでいた奥さんは、何か新しい店がオープンするらしい工事を、通勤中に毎日横目で見ていたという。完成したのはBAR。外観は入りづらい雰囲気ではあったものの、意を決して中に入ると、そこには昔からあったかのような空間が広がっていて驚いたという。また、当時は音楽や音響にさほど詳しくなかったというが、タンノイの大きなスピーカーから流れる音にも魅力された。

留学時代、仲間とシェアしたルームナンバーB-10

「もともとバーテンダー志望だったんです。というのも、大学時代にアメリカのメイン州に留学していて。友人とルームシェアしていたアパートでは、週末になると音楽をかけながら仲間とパーティをしていました。自分はカクテルブックを見ながら、見よう見まねでカクテルを作ったり。そんなとき、みんなから『美味しい!』と言われたのが嬉しくて。実はその部屋の番号が『B-10』だったんです」

帰国後はバーテンダーを目指すべく、新宿にあるチェーン系のパブで修行をスタート。バーカウンターにも入るようになるが、接客スタイルはオーセンティックなものだった。そんなときに出会ったのが、前述の『BAR TRACK』。そのフレンドリーな接客と、音楽を中心とした気取らない雰囲気に魅了され、いつしか常連になっていったという。

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「次第に、いつかこんなお店をやりたいと思うようになって、ならば飲みに通うよりも働いたほうがいいだろうと面接を受けたんです。独立したいという将来の夢も伝え、たくさん勉強させていただきました。15年間も働くことになるとは思ってもいませんでしたけど(笑)」

そう、『BAR B-10』は、『BAR TRACK』で10年近く店長をしていた人が独立して始めたお店なのだ。そのため、オープン間もないにも関わらず、すでに馴染みのお客さんが顔を覗かせる。人気のドリンクは、『BAR TRACK』でも人気メニューだった氷なしハイボール。そして、独立するにあたり自家製で仕込んだレモンサワー。また、各蒸留所のハウススタイルが味わえる、ユナイテッド・ディスティラリーズ社の「花と動物シリーズ」のような珍しいモルトも楽しめる。

モノラル・スピーカー3台を使い分ける

「独立するにあたって、何か特徴が欲しいとずっと考えていたんです。そこで閃いたのが、曲の音質やテイストによって3種類のスピーカーを分けることでした。また、リスニング・ポジションが広いという理由でモノラルで流しています」

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お店をオープンするにあたり、最初にかけたのはオスカー・ピーターソンの「プリーズ・リクエスト」だったという。

スピーカーは、原音再生に近く広がりが生まれる東ドイツのSCHULZ、低音も高音も伸びがあって煌びやかなドイツのSINUS、圧が強めで前にグッと出てくるアメリカのJENSENと、3種類のヴィンテージを用意している。プレーヤーはELACが2台。そして、フォノ・イコライザー(2系統入力・2系統出力)とモノ・アンプ(3系統のスピーカーセレクター付き)には、代々木のVINTAGE JOINのオリジナルが使われている。

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「高校時代はBOØWYのコピーバンドをやったり、留学時代はメロコアを聴いたりと、音楽は好きでしたけど、深堀りするような聴き方はしていなかったですね。なので、『BAR TRACK』の影響は大きいです。ジャクソン・ブラウンやニール・ヤングはもちろん、アイズレー・ブラザーズのようなヒップホップの元ネタとして使われているソウルやR&Bをきっかけに、幅広い音楽を聴くようになりました」

DJ感覚で一曲ごとセレクトしていく

店内では、ほぼ一曲ごとにセレクト。カウンターの人数や、お客さんの雰囲気を見ながらロック、ソウル、ジャズ、シティポップ、そして各種新譜に至るまで幅広い選曲がなされる。また、窓のある白い壁にプロジェクターを投影してライブDVDを流すことも。その自由なスタイルは、友だちの家に遊びに行っているような感覚も呼び起こす。

「大人の気遣いができる、音楽好きに来ていただきたいです」

なるほど、確かにこのお店は自分だけの秘密にしたいような空間。そのヴァイブスがわかりあえる人が集まるからこそ、気の置けない時間が流れていく。しかし、決して敷居が高いわけではない。それらすべてが絶妙なバランスで成り立っている。最後に、奥さんにとって良いバーとはどんな場所かを聞いてみた。

「心地良い緊張感があるところですかね」

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・店名 BAR B-10
・住所 東京都渋谷区恵比寿南2-1-2 新堀ギタービル3F
・営業時間 17:00~27:00
・定休日 月曜
・電話番号 03-6412-8109
・オフィシャルサイト https://barb-10.info/
・インスタグラム https://www.instagram.com/shinjioku/

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