投稿日 : 2020.12.25

【東京・田町/Le Corbeau】フレンチビストロを軸に展開される、趣味人のハイセンス空間

取材・文/富山英三郎  撮影/藤川一輝

ル・コルボオの店内写真1
いつか常連になりたいお店 #53

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回はJR田町駅(東京都港区)の芝浦口(東口)から徒歩約7分の場所にある、フレンチビストロ&バーの『Le Corbeau(ル コルボオ)』を訪問。扉の向こうには非日常が味わえる居心地の良い空間があり、美味しいものを食べ、美味しいお酒を飲み、素敵な音楽を楽しむ。そんな最高の時間にどっぷりと浸かれるお店でした。

ル・コルボオの写真

雑居ビルの階段を昇ると出現するパラレルワールド

初めて行くお店でも事前に店内の雰囲気をチェックできる時代。ご多分にもれずフレンチ・ビストロ&バーの『Le Corbeau(ル コルボオ)』で検索してみると、暗く魅惑的な店内画像が出てきて心が踊る。しかし、なぜだがその全貌を掴むことができない。

いざ足を運んでみると、「この階段を昇った先に本当にあの空間があるの?」と不安になるような雑居ビル。扉を開けると店内は細長く、画像情報が断片的だった理由がうなずけた。まず視界に入るのは、天井から吊るされたドライフラワーとターンテーブルが置かれたカウンター。そのまま右手に進めば、暗がりのなかで重厚なカーテンと間接照明に浮かび上がるテーブル席。入口から左手へと進めば隠し部屋のようなBARスペースという構成になっている。全体的にヨーロッパ的な雰囲気ではあるが、どこの国かいつの時代なのかわからず、窓もないので時が止まったような気分になってくる。

ル・コルボオの店内写真2

「自分が一番長く居る場所なので、内装は自宅の延長線上で考えました。僕の部屋に来たことがある人は、あまりにも似ていて驚くんですよ(笑)。とにかく暗い店が好きなのと、インテリアはヴィンテージなものを使いたいという思いはありました」とは、オーナーでディレクターのウエマさん。

よく見ると、テーブルの脚が1890年代のイギリス製ミシンだったり、ウィンザーチェアで知られる英国アーコール社の1950年代の椅子が置かれていたり、その他グラスやコーヒーカップも年代ものの名品が使われている。

「ドライフラワーを飾るようになったのは、ワケあって花束を家に持って帰れない人がお店に残していったのが最初なんです。皆さん事情はいろいろですが、面白いからドライフラワーにしているうちにこうなったんです」

ル・コルボオの店内写真3

出汁にこだわり、手間隙をかけて生まれるフランス家庭料理

そんな『ル コルボオ』のオープンは2007年。フランスの家庭料理をベースに、コース料理も楽しるビストロ&バーとして、シェフ、パティシエ、ディレクターのウエマさんの3人でスタートした。食材のみならず出汁へのこだわりが強く、一見シンプルなメニューにも相当な手間隙がかけられている。

「最近は渡蟹のパスタが人気ですが、それもまずは甲羅を30分くらい炒めて蟹風味のオリーブオイルを作るんです。それとは別に、大量の野菜や魚の骨、貝などと6時間くらい蟹を煮込んで出汁を取る。そこから蟹の身をほぐして、先ほどのオリーブオイルと出汁を使いながら、イカ墨を練り込んだパスタでペペロンチーノを作っています」

話を聞いただけで絶対に味わってみたいと思うメニューだ。一番人気のフライドポテトも、鴨のコンフィを作る際に生まれる鴨の油を100%使い、ベルギー産のビンチェ種(じゃがいも)を揚げていく。それら独自の美味を追求する「ル コルボオ」では、定番メニュー40種類ほどと、季節のおすすめ10種類ほどが用意されている。しかし、常連客のなかにはここをバーとして利用している人、カフェとして利用している人、ミュージックバーとして利用している人など千差万別なのが面白い。

ル・コルボオの店内写真4

ビールもワインもハードリカーもすべてが豊富に揃う

「オープン当初、お酒に関してはベルギービールの店として知られていたんです。今でもクラフト含めビールだけで150種類くらいあります。ワインも150種類くらいあってグラスも毎日20種類前後は作るようにしています。また、シングルモルトやラムなども200種類、カクテルも自由に頼めます。あれもこれもとなったのはすべて、個人的なマイブームの結果なんですよ」

1977年生まれのウエマさんは東京育ち。ファッション・ジャーナリストだった父親の影響もあり、小さい頃から家ではさまざまな音楽が流れる家庭で育った。中学でギターを始めバンドを組み、プレーヤーとしてもリスナーとしてもロックやジャズ、ブルースなどを中心に愛聴してきたという。その後、大学時代のバーでのアルバイトがきっかけとなり飲食業界に興味が生まれるも、お堅い企業に務めることになる。

「30歳までに自分のお店をやりたいと思っていたんです。とはいえ、会社の雰囲気としては”バーなんてやめておけ”と言われるような感じで。でも、29歳のときにやっぱりやりたいと思って始めました。一日中音楽を聴いていたい、というのが本心だったかもしれないです(笑)」

ル・コルボオの店内写真5

興味が湧いたものは徹底的に追求する姿勢

高校生の頃から青山のバー『Radio』に通うなどアンテナは張り巡らせていた。さらに研究熱心ということもあって、マイブームがおきると徹底的に掘り下げた。

「数年前にクラフトジンのマイブームが起きたり、あとは空前のグラッパ・ブームなんていうのもありました。そのときはグラッパが300種類くらいあったんじゃないかな。最盛期は数が多いですが、そこから厳選されていくんです。いまはアブサンと、フランス系ラムと、究極のレモンサワー作りですね」

これまでの膨大な経験が生かされているだけに、どんなお酒もニュアンスを伝えるだけで最高の一杯が出てくる。そんな至福の時間に流れる音楽を、レコードでかけるようになったのは3年前から。接客の忙しさもあり、それまではCDで流していたが、音源をレコードで買うことが増えて切り替えたという。

ル・コルボオの店内写真6

「忙しいときは片面ずつですが、夜になって料理が落ち着く頃からは1曲ずつ選曲しています。70年代の音楽がベースですが、90年代や最近の音源もかけます。最近のマイブームはローライダー・ソウルやチカーノ・ソウル(笑)。でも、お客さんの雰囲気や出している料理、飲んでいるお酒などを鑑みながら、ベストな楽曲をかけるようにしています。なので、その日に何がかかるかはお楽しみです」

JBL4311が美しく響くBARスペースも人気

左奥のBARスペースには、名品スピーカーのJBL4311が置かれている。中域の厚みがしっかりとありながら、低音も高音も繊細に鳴らす、素直で美しいサウンドが心地いい。最近はこちらのBARスペースのほうが予約を取りづらくなっているとか。アンプは管球式のLUXMAN SQ38。ターンテーブルはTechnicsのSL-1200 MK3。店内が細長いので、ミキサーから3系統で出力している。そのほかのスピーカーもすべてJBLだ。

ル・コルボオの店内写真7

「音響に関しては、いろいろと実験しながらこの空間でのベストを求めています。そうそう、今年はコロナ禍で試しに昼間はカフェ営業をしたんです。あまりにも人が入らないから、1Fにテーブルを置いて売り始めたらすごく人気になって。そこから珈琲熱も再び高まって・・・」

ウエマさんの興味と好奇心は尽きない。彼のマイブームが生まれるたびに、『ル コルボオ』は進化して深化を続ける。それが名店としての確固たるポジションを築き上げた所以でもある。


・店名 Le Corbeau(ル コルボオ)
・住所 東京都港区芝浦3-12-3 Swallow’s next Shibaura 3F
・電話 03-3455-1170
・営業時間 18:00~26:00
・定休日 日曜
・Facebook https://www.facebook.com/Le.Corbeau.shibaura/
・Twitter https://twitter.com/lecorbeauinfo
・Instagram https://www.instagram.com/lecorbeausibaura/