投稿日 : 2022.10.08

初心者が知りたいジャムセッションの心得③|どんな楽器でも参加OK? 楽器別の留意点【ジャムセッション講座/第3回】

これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座

前々回から引き続き、ジャズベーシストの納浩一さんをゲスト講師としてお招きし、ジャムセッションの基本事項を解説。今回はもう少し踏み込んで “楽器ごとの立ち場の違い” や留意点について教えてもらいました。

【本日の講師】
納 浩一(おさむ こういち)

納浩一
ジャズベーシスト。1960年10月24日、大阪生まれ。京都大学卒業後、バークリー音楽大学に留学。帰国後は都内のライブハウスやスタジオセッションを中心に活動。90年代後半から00年代後半にかけて、渡辺貞夫グループのレギュラー・ベーシストとして世界各国を巡る。ジャムセッションでは必須の『ジャズ・スタンダード・バイブル~セッションに役立つ不朽の227曲』(リットーミュージック)などの著書がある。

【聞き手】
千駄木 雄大(せんだぎ ゆうだい)

千駄木雄大
ライター。28歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。コロナ禍でステイホーム中、久々にギターを触りジャムセッションに興味を持つ。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。

“痛ギター”で参加する勇気

──前回に教えていただいたのは「躊躇せず、勇気を持ってジャムセッションに踏み出そう」ということ。それから「参加する際には空気を読もう」というお話でした。

納 浩一(以下、納) はい、初心者がセッションに参加するには、ある程度の“思い切りや開き直り”も必要。でも“カラオケとジャムセッションは違うよ”という話でしたね。つまり、自分が満足することは大切だけど、独りよがりはダメ。一緒に演奏する相手の心情も考慮しつつ、場の空気を読もう、ということです。

──空気を読むという点ではTPOも大事だと思います。ちなみに私が使っているギターは軽音サークル時代の名残で、ステッカーをペタペタ貼っている “痛ギター” なのですが、そんな愛器で参加してもいいんですか?

 そんなギターで小粋なジャズでも弾かれたら、逆にカッコいいかもしれませんね。ちなみに、それはストラトキャスターとかレスポールといったソリッドギターですか?

──はい。ギブソンのレスポールに、寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』の書影をプリントしたステッカーを貼っています。

 そのセンスは全くわかりませんが、ジャズギターって通常はフルアコースティックかセミホロウの、いわゆる “ハコモノ” が多いんですよ。それらは弦が太く、弦高もソリッドギターより高い。よって普段ストラトキャスターを弾き慣れている人が、いきなりハコモノは弾きにくいかもしれませんね。もしギターをハコモノに変えるなら、ある程度、慣らしておいた方が良いですね。

ホロウボディのギター
“ハコモノ”と呼ばれる中空ボディのギター

──確かに、ジャズギタリストでストラトやテレキャスターを弾いている人ってあまり見かけないですよね。

 あと、ギタリストに注意してほしいのは、例えば譜面に「F」のキーが書いてある曲でも、F(ファ)、A(ラ)、C(ド)をジャーンと弾くのはジャズの世界では、NGなんですよ。

──えっ? 普通にコード弾いちゃダメなんすか!?

ハーモニー楽器が心得るべきこと

 いわゆるポップスやロックの世界で「F」と書いてあったら、「F(ファ)、A(ラ)、C(ド)」や「F(ファ)とC(ド)」のパワーコードを弾くだけでも成立します。ところがジャズの場合は、まず「F」はベーシストが弾きますから、ギターは「F」を弾かないんです。

ちなみに、四和音(7th)やナインス(9th)コードってわかります?

──コード表で見たことはありますが、実際の押さえ方はわかりません……。でも、“ジャズで使うコード” というイメージはあります。

 セブンスやナインスといったコードや、そのスケールについて勉強することは、ジャズではとても大事です。これはスタンダードの練習とは別の話になりますが、たとえば「Fのキーで自由にソロを弾いてみて」といわれて手も足も出ない人は、ジャムセッションに入っても困ってしまうので、そういったことを勉強しておいて損はないでしょう。

──Fコードを押さえたときの構成音にF(ファ)、A(ラ)、C(ド)があるのはわかっていますが、それだけでは足りないんですね。

 そこで、「だったらA(ラ)とC(ド)は弾いてもいい音だな」ということをまず認識し、さらには「G(ソ)とD(レ)はイケるよね(これはテンションでいうところの「ナインス」や「サーティーンス」に当たります)」とか「セブンスのE♭もいっちゃおうか」と考えられるようになるとしめたものです。

──セブンスやナインスといったジャズ的なコードを基調に、スラスラとフレーズが出るようになりたいなぁ…。しかもそれを、ステッカーだらけの “痛ギター” で弾けるようになりたい!

 ヘンに注目を集めると思いますよ(笑)。でも、これはギタリストに限った話ではないですよね。

例えば「コードトーンは長3度だけにして、あとは2つテンション入れよう」みたいなことを考え始めると、では「テンションって何?」となりますよね。そうすると「使えるテンション・ノートには何があるのだろうか?」という “スケール” の勉強をする必要があります。

ソリストはもちろんですが、ギタリストやピアニストといったハーモニー楽器の演奏者にも、そういう勉強はとても大事です。

管楽器やドラムは?

──なるほど。では管楽器の演奏者はどう立ち回ればいいのでしょうか?

 さっきの状況、つまりベーシストがFを弾き、ギタリストが長3度とテンションを2つほど入れたコードを弾いてるとき、サックスやトランペット奏者は “そこにどんなフレーズやスケールが乗っかるのか” を瞬時に判断する必要があるわけです。でもこれはあくまでも「いい “ソロ” を弾くための必要条件」であって、最終的に乗っけたフレーズが良いか悪いかは、やはりソリストのセンスと言えます。

──演奏の基礎を作るベースやドラムといったリズム隊が気を配るべきことは?

 ジャズのスタンダードにはラテンとスウィングのリズムがちゃんと決まっている曲、もしくは、その両方が場面ごとに変わる曲があります。そのため「次の曲はラテンでお願いします」といわれたときに、リズム隊はラテンのリズムというものを理解しておかないと、雰囲気が出せないんですよね。

──ラテンとスウィングで、そんなにリズムの構造が違うものなのでしょうか?

 ラテン風の楽曲だと、例えば「チュニジアの夜」という曲がありますが、この曲にはある程度 “決まったイントロ” があるんです。

それはアート・ブレイキーなどの有名なドラマーによるパターンが雛形になっている “決まった雰囲気の出だし” なのですが、ドラマーはその叩き方を知らないと絵になりません。

そのため、ドラマーとベーシストは、このような楽曲を演奏する上で、ラテンのリズムのパターンやニュアンスというのを、事前に聴いて理解しておくべきなんですね。

もちろん、他にも楽器ごとに様々な留意点がありますが、いま挙げたのは “例えばこんな留意点がありますよ”という話です。

セッション不可の楽器もある?

──ところで、ジャムセッションの場には、どんな楽器でも持ち込みOKなんですか?

 ジャズの心得がある限りは、基本的にどんな楽器で参加しても構いません。これまで私が経験した中では「篠笛」とのセッションがあります。

篠笛ジャズ

──和楽器!? ってことは三味線なんかで参加して目立つのもいいですね。

 あんまり突拍子もない楽器で参加しないほうがいいと思いますよ……。さすがに、初心者が急に三味線でジャズに参加するのは難しい。もちろん、腕に覚えがあってジャズの話法も理解していて、なおかつセッションを成立させる技量があれば問題ないですけどね。

それから、厳密にいうと「どんな楽器でも持ち込みOK」というわけでもありません。例えばジャズを奏でる楽器としてビブラフォンやマリンバはわりと一般的ですが、会場が小さな店だったりすると置き場がないので無理です。そこは事前に確認した方が良いですよね。

ビブラフォンジャズ

──なるほど。先生のアコースティックベースもビブラフォンと同様、かなり容積は大きいですけど、床面積はさほど占有しませんからね。

 そうですね。ドラムとピアノも面積を取りますけど、これは店に常設されているものを使うことになるので、ほぼ持ち込むことはないです。店の備品としてギターやベースが用意されていることもありますけど、弦楽器や管楽器は演奏者の私物を持ち込むのが一般的ですね。

──なるほど…。自分が演奏するギターのことしか頭になかったけど、一緒に演奏する楽器それぞれの事情がわかってきました。

続きは次回、さらに踏み込んで「どうやって演奏が始まり、どうやって終わるのか」。そして、どんな練習・勉強法があるのか? に迫る。

続きは次回「“演奏の終わらせ方”って知ってる?」

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

① 寺山修司ステッカーの “痛ギター”で参加も可
② 素人が突拍子もない楽器を使うな
③ ジャズ特有のコードとルールを覚えておけ
④「ラテン」のフィーリングも身につけろ


『CODA -コーダ』

納浩一の最新アルバム。プロデュースおよびすべての収録全楽曲の作曲・編曲・作詞、プロデュースを納浩一が手がけ、日本のトップミュージシャン総勢36人が参加。

納浩一オフィシャルサイト

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