投稿日 : 2019.04.01 更新日 : 2021.03.16

【ディープ・パープル】誰もが知る有名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」が生まれた場所/ライブ盤で聴くモントルー Vol.3

文:二階堂 尚

「世界3大ジャズ・フェス」に数えられるスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)。これまで幅広いジャンルのミュージシャンが熱演を繰り広げてきたこのフェスの特徴は、50年を超える歴史を通じてライブ音源と映像が豊富にストックされている点にある。その中からCD、DVD、デジタル音源などでリリースされている「名盤」を紹介していく。

50年以上に渡ってスイスで開催されてきたモントルー・ジャズ・フェスティバル。その歴史の貴重な記録であるライブ盤を紹介していく連載の3回目は、現在も活動を続けるハード・ロック界のレジェンドのモントルー初ステージを収録した一枚を取り上げる。音楽ファンなら誰でも聴いたことのある彼らの代表曲は、モントルーで起きたある出来事をもとにした「ドキュメント・ソング」でもあった。

史上最強の「ご当地ソング」を激しく奏でる

モントルー・ジャズ・フェスティバルの創設者にしてプロデューサーであったクロード・ノブスには「多様性を追求する」という揺るがざる信念があった。ジャズ・フェスを謳っていながら、ジャズ以外のジャンルのさまざまなミュージシャンを招聘したのはそのためだ。これまで出演した非ジャズ系ミュージシャンは枚挙にいとまがないが、最初に紹介するのはどうしてもディープ・パープルでなければならない。

1971年、ディープ・パープルは新しいアルバムを録音するためにモントルーに向かった。メンバーは、フェスティバルでも使われていたカジノのステージを使ってライブに近い形で録音することを目論んでいたが、フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのライブ中、興奮した観客が照明弾を飛ばして建物を燃やしてしまった。燃えるカジノ、逃げ惑う観客、レマン湖上を流れる煙──。その光景をドキュメント風の歌詞にしたのが、彼らの代表曲である「スモーク・オン・ザ・ウォーター」である。

歌詞の中には、フランク・ザッパや移動録音スタジオをディープ・パープルに貸していたローリング・ストーンズに加えて「ファンキーなクロード」という人物が登場する。「走り回って、子どもたちを外に連れ出した」と歌われるその人物こそ、クロード・ノブスにほかならない。同曲が収録されたアルバム『マシン・ヘッド』(1972年発表)のCDの内ジャケットには、彼の写真まで掲載されている。史上最強のリフをもつハード・ロック・チューンは、史上最強のご当地ソングでもあったのである。

DEEP PURPLE『SMOKE ON THE WATER』の歌詞(外部リンク)

しかし、そのモントルーのステージにディープ・パープルが初めて立ったのは、ようやく1996年になってからだった。メンバーの変転が激しいグループとして知られるが、この時期は5人中4人が「スモーク・オン・ザ・ウォーター」録音時の「黄金期」と称される時代と同じメンバーだった。不在だったのは、リフの作者であったリッチー・ブラックモアのみである。それがこのライブ盤の評価をやや下げている要因だが、コアなファン以外のリスナーにはそれはさほど問題ではない。最大の問題はボーカルのイアン・ギランの声である。「黄金期」から25歳近く老いたギランの声はさすがに衰えていて、1曲目の「ファイアーボール」を聴くとこの先どうなるのかと不安になる。

しかし、ライブが進むにつれて次第に安定感を見せるあたりはさすがと言うべきだろう。ギランの調子が上がるにつれて、ライブのボルテージも上がっていく。

当日のステージで演奏された11曲中8曲はリッチー在籍時のナンバー。アルバムにはうち10曲が収録されている。「ブラック・ナイト」、「ウーマン・フロム・トーキョー」、「スピード・キング」と、ハード・ロック・ファンなら誰でも知っている代表曲が並ぶが、観客の盛り上がりが最高潮に達するのは、むろん「スモーク・オン・ザ・ウォーター」である。ジョン・ロードのクラシック風ピアノとスティーヴ・モーズのアンビエントなギター・ソロで引っ張った後に必殺のリフになだれ込む。最初の歌詞は「俺たちはモントルーにやって来た」だ。これで客が盛り上がらないはずはない。途中でバンドは演奏をブレイクし、聴衆がサビを合唱する。ギランが「お前らの声が聴こえるぜ。もっとくれ」と煽る。ジャズのライブでは見られない光景である。


1996年出演時の模様。

アルバムには、96年のステージの最終曲であった「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に続いて、2回目のモントルー登場となった2000年のステージからの2曲がアンコールの趣向で加えられている。ディープ・パープルはこの後計8回モントルーのステージに立ち、フェスの常連バンドのひとつとなっている。

『ライブ・アット・モントルー  1996』
ディープ・パープル
■1.Fireball 2.Ted The Mechanic 3.Pictures Of Home 4.Black Night 5.Woman From Tokyo 6.No One Came 7.When A Blind Man Cries 8.Hey Cisco 9.Speed King 10.Smoke On The Water 11.Sometimes I Feel like Screaming 12.Fools
■Ian Gillan(vo)、Steve Morse(g)、Roger Glover(b)、Ian Paice(ds)、Jon Lord(kb)
■第29回モントルー・ジャズ・フェスティバル/1996年7月9日 ※M11、M12のみ2000年7月22日のライブ音源

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