投稿日 : 2019.12.27 更新日 : 2020.11.25

【東京・下北沢/NO ROOM FOR SQUARES】禁酒法時代にタイムスリップできる秘密のバー

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真1
いつか常連になりたいお店 #44

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、『Time Out』誌の調査で「世界で最もクールな街」で2位に選ばれた下北沢(東京都世田谷区)にて、2019年9月にオープンした『NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)』を訪問。そこはジャズとバー文化を愛する若き店主による、クールでセクシーな空間でした。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真2

 華麗なるギャツビーの時代へようこそ

下北沢駅の東口または南西口から出て、下北沢南口商店街をくだりきった四差路にあるビルに『NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)』はある。多少土地勘のある人には、『餃子の王将』の斜め向かいのビルと言ったほうがわかりやすだろうか。

エレベーターに乗り4Fを押し、扉が開くと右側にはヴィンテージなコーラの自販機。左側を見ると、よくあるクリーム色の鉄の扉。「えっ?」、まずはクリーム色の扉を開けてみると、そこは非常階段。気持ちを入れ替えてコーラの扉を開けると、色調の暗いウッドとスチールに満ちたバーが現れた。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真3

「ジャズが一番最初に流行ったのは1920~30年代。それは禁酒法の時代でもありました。当時、お酒はみんな潜りのお店で飲んでいたんです。レストランにある本棚を開けるとバーが出現したり、スタッフルームを開けると飲み屋だったり。そういう無許可のバーや密売所を『Speakeasy(スピークイージー)』と言ったんです」と、店主の仲田晃平さんは語る。

入り口に仕掛けがあるのは、スピークイージー・バーへのオマージュだったのだ。一歩店内に入れば、映画『華麗なるギャツビー』で描かれた「Roaring Twenties(狂騒の20年代)」にタイムスリップすることができる。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真4

 カクテルとジャズは同じ経路を辿って発展した

「これは世界のバーテンダーの頂点にも輝いた後閑信吾さんから聞いた話ですが、ニューオーリンズで生まれ、ニューヨークで禁酒法の時代にカクテル文化が花開いた。その文化が辿った流れと、ジャズおよびジャズメンの移動経路がリンクするというのです。その話をヒントに禁酒法時代をコンセプトにしたお店を作りました。コンセプトが1920~1930年代ならば、当然ジャズがかかっているはずだと考えたのです。ですから、うちはあえてジャズバーを名乗っていません」

 ここまでの話だけだと、完全にお酒&バー文化を背景にしたお店に思える。しかし、店主の仲田晃平さんはサックスプレイヤーとして、これまで都内近郊のジャズバーでライブをしてきた業界では知られた存在。若き日は、伊地知大輔さん(Ba.)や山田玲さん(Dr.)などとバンドを組み、社会人になってからも類家心平さん(Tp.)や、板橋文夫さん(Pf.)とも共演してきたほど。もちろん現在も現役だ。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真5

 サックスプレイヤーとしての一面

「お酒をご馳走してくれた最初のサークルが、たまたまジャズ研だったんです(笑)。それまで楽器なんて触ったこともなかったですが、うまく吹けないことが面白くて、気づいたら社会人になっても続けていました」

就職活動のとき、ジャズミュージシャン、ジャズバーの店主、会社員の三択で悩んだという。出した答えは、30歳までに決めようということ。

「大学時代、北千住のジャズバー『バードランド』でアルバイトをしていたんです。そこで名プレイヤーたちの演奏をたくさん聴いて、マスターの紹介でカウンター越しにお話させていただく機会もあって。自分はプロにはなれないと思いつつも、ジャズメンへの憧れは人一倍ありました」

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真6

その後、酒類関係の会社に入ればジャズバーにもつながると思い、お酒の問屋さんに就職。以来、サントリーのワイン事業部、バカルディジャパン、ウイスキーの専門商社と転職し、さらに2軒のバーで働いたのちに『NO ROOM FOR SQUARES』をオープンさせた。ちなみに、仲田さんは1988年生まれ。31歳でジャズバー経営を選択したことになる。

「バカルディジャパン時代、主な営業先がバーだったんです。そこではアジアトップ50にランクインするようないいお店をたくさん担当させてもらい、彼らの哲学を学ばせていただきました。一方、週末に訪れるジャズバーの店主たちからは、彼らのような熱さが感じられなかった。ジャズへの熱意はあっても、ビジネスへの思いは薄いように感じたんです」

「ジャズバーやジャズ喫茶は儲からない」というのは、半ば業界の統一見解となっている。しかし、その風潮に仲田さんは警鐘を鳴らす。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真7

ジャズを愛するがゆえの憂い

「自分はジャズで人生が変わったので、どうにかしてこの文化を残したい。でもこのままでは、ジャズはクラシックのようにホールでしか演奏されない音楽になってしまう。それを食い止めるには、往年のジャズファンだけに頼るわけにはいかない。その思いを、『NO ROOM FOR SQUARES(お堅いやつはお断り)』という店名に込めています。もちろん、ハンク・モブレーが好きなプレイヤーのひとりだということもあります」

同店では、一流のバーを目指しつつも、学生も来られるよう昼間はカフェ、土曜日の夜はジャズライブ、平日はジャズの音源をかけるお店を目指した。音量はライブと同じくらいというから、かなりの大音量だ。

「下北沢にあるかっこいいバーという感覚で来てくれれば嬉しいです。そんな空間でかかっている音楽に興味を持ってくれた人が、ライブにも来てくれる。また、ライブに来てくれた人が平日に来店してくれる。そういう循環ができればありがたいですね」

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真8

緊張感は漂うが、接客はあくまでも柔らか

1920~30年代がコンセプトとはいえ、店内でスイングがかかることはない。モダンジャズ以降の音源が多く、主にはMPSなど70年代に人気だったレーベルものがかかる。また、上原ひろみやティグラン・ハマシアンなども流れる。お客さんや雰囲気に合わせて幅広い選曲がなされるのが特徴だ。 また、このお店ではメニュー表がないというのもポイント。とはいえ、バー初心者までをもターゲットとするには、いささか不親切に感じる。

「何かしらの緊張感がないと、音量が大きいただのラウンジになってしまうんです。うちは、内装と暗さとメニューのなさゆえに緊張するかもしれませんが、接客はすごく柔らかいんです(笑)」

人々の行動において「体験」が大きなキーワードになっている昨今。ある種の怪しさをまとったスピークイージー・バーという空間で、若者にとっては物珍しさのあるレコードがくるくると回り、ジャズライブがおこなわれ、マスターは拍子抜けするほどフレンドリー。こんな空間を知ったら、誰もが大切な人を連れて訪問したくなるに違いない。

NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)の写真9


・店名 NO ROOM FOR SQUARES(ノー ルーム フォー スクエア)
・住所 東京都世田谷区北沢2-1-7 ハウジング北沢ビルII 4F
・営業時間 平日 14:00~26:00、土曜 Cafe/14:00~17:00 Live/ 19:00~23:00 Bar/23:00~26:00、日曜 14:00~24:00
・定休日 不定休
・電話番号 03–6450-7371
・オフィシャルサイト http://www.nrfsbar.com

その他の連載・特集