投稿日 : 2020.04.21

牧山純子 ─バイオリンでスムースジャズ。愛器をロスで鳴らしてみたら…【Women In JAZZ/#20】

インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/平野 明

クラシック音楽のイメージが強いバイオリンという楽器で、ジャズを表現力豊かに奏でて多くのリスナーを魅了している牧山純子。彼女のニュー・アルバム『アレグリア』がリリースされた。これまでの作品はアコースティックなサウンドのものが多かったが、今回はキーボード奏者の安部潤、そしてロサンゼルスで活動中のギタリスト/アレンジャーのKay-Ta Matsunoをサウンド・プロデューサーに迎え、スムースジャズ的でポップなサウンドが展開されている。

イタリア生まれの楽器をアメリカで鳴らしてみたら

──ニュー・アルバム『アレグリア』は、これまでのアコースティックなアルバムとはひと味違った、フュージョンというか、スムースジャズ寄りのサウンドになっていますね。

これまでは、私とヨーロッパとの繋がりで出会ってきた、バイオリンによるアコースティックな音楽が基本になっていました。その一方で、新しいものを見つけていくのも自分の性分みたいで、今回、目を向けたのがアメリカだったんです。スムース・ジャズ・テイストの気持ちのいいメロディをバイオリンが奏でる。そういう音楽をやりたいなと。

牧山純子『アレグリア』(キングレコード)

──ロサンゼルスでレコーディングしたのも、そういう思いから?

私のバイオリンをロサンゼルスで鳴らしたら、どんな響きになるのかなって。ヨーロッパで演奏したとき、バイオリンの鳴りが変化して面白かったんです。スロベニアだと、隣がイタリアなので、楽器が里帰りした喜びみたいな声が聞こえてきて。だからその子(楽器)を、今度はアメリカのロスに連れて行ったらどんな声を出すんだろう…って。

今の時代はデータのやりとりで、すべて別々に録ることもできるんですけど、やっぱりフェイス・トゥ・フェイスでその空気の中で鳴らしたかったのと、奏者の方にもお会いしたかったので、無理を承知でがんばってロスに行きました。

 

──今の時代、海外レコーディングって、なかなか難しいですもんね。

予算的にとか、いろいろな意味でたいへんなのはわかるんですけど、それ以上に私の人生の中で、お金に換えられない何かが得られるんじゃないかなって。

──ロスのレコーディングで鳴った「音」はどんなものでしたか?

ヨーロッパの響きとは全然違いました。スタジオにあったピアノの音もそうなんですけど、そこの音楽に合わせて調整がされているんですよね。そして自分の体が、その聞こえてきた音に反応して、今まで出したことのない音やフレーズが出てきました。

──やっぱり楽器って、生きているんですね。

1800年代にイタリアのトリノで作られた楽器なんですけど、その子が世界を渡り歩いて日本の私の手元に来て、日本各地で弾いているだけでも音が違うのがわかるし、ヨーロッパに行くと、相棒が日々違う声を出すっていうやりとりはずっと続いてきました。

そして今回、ロスのスタジオで一音出した時に、すごく娯楽的な音というか、アメリカだなぁっていう感じがしました。空気が乾燥しているので響きはいいし、なんか明るいというか。

──その土地の空気で音楽も変わってくると。

ホテルからスタジオに行くのに、15分ぐらい車でハイウェイに乗って行くんですけど、ラジオから聞こえてくる音楽も、やっぱりヨーロッパとは違う。あぁアメリカだなぁ…っていうテイストがあるんです。風土に合った音楽っていうのがあるんだなって感じました。

──純子さん自身のプレイも、普段とは変わったりはしましたか?

特に今回エリック・マリエンサル(sax)さんと共演をさせていただいて、ソプラノ・サックスと息を合わせてユニゾンする曲面があったんですけど、その時の音の出し方は変わってきましたね。自分のバイオリンを鳴らすというよりは、寄り添うというか、歩み寄るみたいなことは考えました。あと普段はエレクトリック・ベースをバックに弾くことがないので、エレベの音が聞こえてきた時に、バイオリンももう少しこうしたいとかいう欲求は生まれてきました。

──スムースジャズ的なサウンドで、バイオリンというのは、アメリカでも珍しかったんじゃないですか?

向こうのミュージシャンの方たちも、楽しいって言ってくださいましたね。スムースジャズの世界でも、バイオリンがメインというのはあまりないので、すごく喜んでくださいました。

爪を黒く塗りました。不良になりたくて(笑)

──今回のオリジナル曲は、どういうイメージで書かれたものなのですか?

私の中にはどうしてもクラシックが根強く残っているんですけど、今回の曲に関してはコード的にもリズム的にももっと挑戦したかったので、キーボードとアレンジの安部潤さんにバック・トラックだけを作っていただいて、メロディを私が書くという共同制作をさせていただきました。そうすることによって、今まで自分が喋っていた言葉じゃない言葉を乗せたくなるんです。その結果、曲も明らかに違ってきたり。

──今回、エレクトリック・バイオリンも使っていますよね。

今回、どうしても「20thセンチュリー・ボーイ」(T・レックスの楽曲)をカバーしたくて。しかもエレクトリック・バイオリンやってみようと。エレクトリック・ギターで弾いてるって勘違いされる方も多いんですけど、ど頭のリフから全部エレクトリック・バイオリンで弾いてます。

この楽器は、もともと指板が黒だったんですけど、やっぱりロックっていうと服は黒というイメージがあったので、その中で楽器を目立たせてあげるために、特注で赤い指板にしていただきました。だからこのモデルは世界に1台だけなんです。だったら爪も黒くして目立とう、不良になってやろうと(笑)。

──ロックは不良の音楽だから(笑)。

クラシックを弾いている自分は、CDジャケットだけ見ると、普段からドレスを着てるような高飛車でヤな女みたいな感じなので、今回は不良になりたかったんですよ(笑)。たしかに「クラシック以外の音楽をやるのは不良だ」っていう考え方で育てられてきた部分もあって、ポップスやロックでさえ、自分の家庭の中にはなかったんですね。

今回、アーティスト写真もダメージ・ジーンズ穿いてて膝が出てるんですけど、これをアメリカで買ってきて母の前で穿いたら「穴が開いてるから着替えてらっしゃい」って言われた(笑)。それぐらい厳しかったんです。遅まきながら、今回はやれることはやってやろう、って思って。

──衣装やネイルが、演奏に影響を及ぼすこともある?

じつは、爪の色が黒いだけで弾きづらいんです。あと、いま流行っている指1本ずつ色の違うネイルとかもやってみたんですけど、弾いている時に指先を見ていると、酔うんですよ(笑)。クラシックでは、爪にマニキュアを塗るだけで重さが変わってスピードが変わるから、ほんとうはやっちゃいけないことなんですけど、女性だから爪がきれいだと気持ちが上がりますよね。だから、そこも不良になりながら(笑)。

──楽器も含めた、トータル・コーディネイトですね。

やっぱり女性だし、こういった遊びがあるものも好きなので、エレクトリック・バイオリンのデコレーションなんかも考えています。普通のアコースティックな楽器は骨董品でもあるので手を加えられないけど、この楽器だったら普通の人でも購入できて、自分で楽器をカスタマイズできる。誰々のモデル、みたいなものができたり、もっとポピュラーなものになってもいいと思いますね。

──バイオリンって、あまりカジュアルなイメージはないですからね。

じつはエレクトリック・バイオリンって、普通のバイオリンよりも音が出しやすいんです。アコースティックよりも簡単に弾けるかもしれません。バックのトラックに合わせてガーッと弾いているだけでも、曲を弾けた気になれるような教材を作れば、もっとバイオリンという楽器が身近になるんじゃないかなって思っています。

ただし、いまプロでエレクトリック・バイオリンを使っている人って、どう弾いているかわかんないくらい高度なことをやってるんですよ。例えばエフェクターのここを踏めば、こういう音になるとか、そういうことも含めてかなり難しいし謎も多い。それを一緒に勉強していきましょう、っていう動画を作って、エレクトリック・バイオリンの魅力を伝えたいと思っています。

牧山純子/まきやま じゅんこ(写真右)
東京都出身。3歳からピアノ、4歳からバイオリンを始め、武蔵野音楽大学卒業後フランスで学び、帰国後はソリストとして活動。2002年バークリー音楽大学に入学し、ジャズ・ヴァイオリンを専攻する。2003年に帰国し、2007年11月にインディーズ・レーベルよりファースト・アルバム『ポートレイト・オブ・ニューヨーク』をリリース。2008年11月に『ミストラル』でメジャー・デビュー。その後もソロ・アーティストや様々なセッションをはじめ、テレビ番組のコメンテーター、ラジオのパーソナリティ、書籍の執筆など、幅広い活動を展開中。【牧山純子 オフィシャル・ホームページ】http://www.junkomakiyama.com/index.html
島田奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー/写真左)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。