【Women In JAZZ】甲田まひる a.k.a. Mappy「バド・パウエルとピート・ロックがヒーロー」の新進ジャズピアニスト登場

インタビュー/島田奈央子  構成/熊谷美広

2018.07.10

Mappy インタビュー

ジャズ界で活躍する女性ミュージシャンの本音に切り込むインタビューシリーズ。今回登場するのは、ピアニストの甲田まひる a.k.a. Mappy。

彼女はこの5月に、アルバム『PLANKTON』をリリースしたばかりの新人だが、じつは14万人のインスタグラム・フォロワーを持つ、超有名ファッショニスタでもある。

そんな彼女の“ジャズピアニスト”デビュー作は、新井和輝(b)と石若駿(ds)を迎え、発売元はあの伝説のレーベル“スリー・ブラインド・マイス”という、硬派な1枚。まだ17歳になったばかりの Mappyと対峙するのは、“女性プレイヤーの気持ち”が最もわかるライター島田奈央子。

図書館のバド・パウエルで開眼

——ピアノを始めたのは何歳から?

「5歳から始めました」

——最初はクラシックを弾いていたんですか?

「はい。でもコンクールとかで演奏してるうちに『クラシックじゃない曲の方が楽しいなぁ…』って思うようになって」

——それがジャズだった。

「はい。そのことをお母さん言ったら、お母さんもジャズをほとんど聴いたことがなかったので、一緒に図書館に行って、片っ端からジャズのCDを聴きはじめたんです」

——その中で、バド・パウエルに衝撃を受けた、と。

「そうです。バドと(セロニアス・)モンクに惹かれて、以来ずっとその2人のコピーをしてました。聴くときはアドリブも一緒に歌っちゃいます」

——バドもモンクも偉人ですけど、ジャズの歴史の中では、かなり個性的で異質な存在だと思うんです。彼らの、どんなところに魅力を感じた?

「私自身も異質なので(笑)。完璧なものとか綺麗なものに、そんなに魅力を感じなくて。バドもモンクも、人と違う音を出していることにすごく衝撃を受けたんです。で、そこからYouTubeとかを見始めたら、モンクはファッションとかもすごく可愛くて。そういった人柄が、見た目にも音にも出ているなぁ、って」

——それがいくつぐらいの時ですか?

「8歳ぐらいです」

——8歳! 不思議な小学生だったのね(笑)。

「きっと血もあると思います。お母さんも古いものとかが好きだったり……、ずっとバックパッカーをやってて、インドとか旅して、社会に属さない感じの人だったし。お兄ちゃんも旅がすごく好きで、バックパッカーやったり。まあ、とにかく“キレイめ”な感じじゃないんですよ(笑)。蔦が絡まった家が大好物、みたいなセンスの家族なので(笑)、私も自然とそういうものを好むようになったのかなって思います」

レコーディングで感じた重圧

——小学生のとき、同級生と比べると「自分はちょっと違うな…」と感じてた?

「“人と違う”ことはすごくいいことなので、私はそれでいいと思ってました(笑)。音楽だけじゃなくてファッションも“他人との違い”を表現することのひとつだったので、人と同じものはできるだけ着たくないって思ってました。ファッションもピアノも、みんなと一緒は嫌だったので、その人にしかできないものをやっている人に惹かれました」

——同世代の女の子とは感覚が合わなかった。

「小学生の頃って、女の子はみんなお揃いの物を持ちたがるんですよ。私はそれがすごく嫌で、自分からそういった輪の中には入っていかなかった。まあ、そこは今もそうですね。独りでも大丈夫、みたいな(笑)。基本、異性の友達といるタイプです」

——そもそも小学校で、超ハイセンスな服の話とか、ジャズの話ができる同級生なんていないもんね…。

「でも、ほかの話題では話が合うし、普通に盛り上がってましたよ。人を笑わせることが好きなので、ずっとギャグとかやってたから……(笑)」

——クラスメイトたちは、Mappyさんがピアノを弾くことは知っていた?

「知ってました。音楽の授業で、合唱の伴奏なんかもずっとしていたので」

——伴奏のときに、自分なりのアレンジで弾いてみたりとか(笑)。

「いや、そこはめっちゃ真面目にやりましたよ(笑)。合唱祭とかでも絶対優勝するぞ! みたいな感じで。それで3年間優勝しました。そのへんは、めっちゃ気合い入ってました。指揮者にも『もっとちゃんとやってよ!』って(笑)」

——団結すると燃えるタイプなのね(笑)。ところで、ピアノを嫌いになったことはある?

「この日までにこれをやらなきゃ、練習しなきゃというときは、それがストレスになることもあります。今回の(アルバムの)レコーディングも、1か月ぐらい前から、ずっとお腹が痛くて。相当のストレスだったんだと思います。でもレコーディングをやって、そのあと何本かのライブが終わったら、いきなり健康になりました(笑)。基本的に、弾いている時間は楽しいんですよ」

——ベテランのミュージシャンでも、そういうこと言っている人、いますよ。

「自分の実力がもっと上がれば、自信がついて余裕を持てるのか…。それとも、一生、現状に満足しない状態が続くのか…。そこは、今はまだわからないんですけど、演奏に関しては『もっと上手くなりたいな』って、いつも思いながら練習してます。だから、練習が楽しくってしょうがないっていう人、うらやましいです(笑)。セッションとかでも、毎回緊張して『もうダメ…』っていう気分になります。弾きはじめると楽しいんですけど」

——レコーディングを体験して、少し大人に近づいた?

「やりたいことが見えてきて、客観的に見れるようになってきたというか、それに向けて何をするべきか、をすごく考えるようになりました。レコーディング前よりも、自分のやりたいことがわかるようになってきた」

小学生時代は“闘い”の日々

——Mappyさんは、若い世代から“ファッショニスタ”としても支持されていますけど、ファッションに興味を持ったのはいつ頃?

「ファッションは、幼稚園の頃から興味があって、街のお姉さんとかもよく見てて、流行りモノにもすごく敏感でした。その頃から、人と同じものは着たくなかったから、できるだけ最新のものを探すようにしてました。で、見つけたものが、3年経って大量生産されるようになると、興味がなくなったり。どんなに可愛いかったものも、みんなと一緒だったら、可愛くなく見えてきて」

——お母さんの影響もあったのかな?

「お母さんは“いいものをどうやって安く手に入れるか”みたいな考え方の人で、古着とかも着ていたし、私もお母さんとお出かけして、一緒にお買い物をしてましたね。あと、子供の頃に『オシャレ魔女 ラブandベリー』っていうカードゲームに“どハマり”して。かわいい系とかクール系とかのカテゴリーに服が分かれていて、それを組み合わせてダンス・バトルするんですけど、それで何を何に合わせるといいか、がわかってきて。そこから本格的にファッションが好きになっていきました」

——ほかに夢中になっていたことはある?

「その頃は絵も好きで、イラストレーターになりたかったので、ファッション画をとにかく書きまくって、自分で雑誌を作ったり。でもちょうどその頃にピアノを始めて、ジャズに出会ってピアノの専門コースに進んでからは、絵よりもピアノをやりたいと思うようになりました」

——でも、ファッションにも手を抜かなかったわけでしょ。

「小学校に入った頃からピアスを開けたくて、4年生のときに開けたんです。学校には一応、透明なピアスつけて行ってたんですけど、先生に『何ですか? それは』って感じで怒られて。あと、髪を毛先だけ金色にして学校に行ったらすごく怒られて。でも絶対に変えない! って思って、めっちゃ喧嘩してました(笑)」

——結局、先生とは分かり合えなかった?

「うーん、毛先を5センチくらい金色にしたときにね、ちょっと飽きてきて、気分転換にアッシュっぽいグレーを入れたんですよ。それで学校に行ってみたら、『もうちょっとだな、もうちょっと色を暗くすればいい』って言われて(笑)。いや、これは、おしゃれで色を変えてるんですけど! って(笑)」

——あはは、ちょっと黒に近づいたから「いい兆候だ」って思ったのね(笑)。

「中学校に行ったらもっと厳しくなって、もう最悪でした。黒いカチューシャとかもしちゃいけなくて、ピン留めとかも黒じゃないとダメだし」

——厳しい中学校だったの?

「地元の公立校だったんですけどね。校則に“革靴OK”ってあったから、原宿の古着屋で買った高いヒールのローファーで行ったら、入学式当日に呼び出されて『やめなさい』って。『え? これ革靴じゃん』って(笑)。それで、もうちょっと低いヒールのものに変えて、それを3年間履き続けました。みんなスニーカーを履いていて、ローファーを履いていたのは私だけだったので、目立ってたみたいです。『制服にスニーカーって…なんで?』って感じでした」

——闘ってたんだ。

「ずっと闘ってましたね。中学3年生のとき、卒業式の1か月くらい前に茶髪にしたら、7回くらい呼び出されました。光に当たらないとわからないくらい自然な感じだったんですけど、『卒業式にはスプレーで黒くして出なさい』って言われて。お母さんは『だったら本人は出ないと思います』って言ってくれて、なんとかそのまま出られました」

——義務教育ではそういう個性を認めてくれなかったけど、ミュージシャンは個性が重んじられるわけだから、自分に合っているのでは?

「ミュージシャンは表現するのが基本だし、ほんとうに自由に表現できるから、いちばん合っていると思います」

“ヒップホップ以降”の新感覚

——自分の中では、ピアニストとファッショニスタというのは、同じ感覚?

「同じですね。特に意識はしていないんですけど、自分の中では音楽とファッションは繋がっていて“表現する”という意味でも一緒だと思います。音で表現するのか、見た目でするのかの違いだけで。どっちも好きだから、同時にできるのがいちばんいいじゃないですか」

——ピアニストは指の爪を伸ばせないでしょ? そのストレスはない?

「ないですね。っていうか“女性らしいこと”に、そんなに興味がない(笑)」

——ファッション的には、最近、どんな系統が好き?

「ヒップホップですね。聴く音楽も、いまはヒップホップしか聴いてないし、ヒップホップな格好がしたい、っていう感じです」

——でも演奏は、ビバップなんですよね。

「それはそれです(笑)。今回のアルバムはビバップですけど、ジャズを弾くときも、ヒップホップから影響を受けたものを弾くこともあるし。もともとヒップホップの中にもジャズがあったりするから、どっちもずっとやりたいと考えています」

——ヒップホップだと、どんなのを聴いてるの?

「たとえば、クルックリン・ドジャーズっていう……90年代のヒップホップ・ユニットなんですけど」

——90年代ってことは、あなたが生まれる前の曲ね(笑)。

「はい。最近そのレコードを見つけて、即買いしました。1作目はQティップのプロデュースで、2作目はDJプレミア。3枚目は9th ワンダーがやってるんですけど、2作目が好きすぎて、聴きすぎて、最近やっと飽きてきました(笑)」

——ケンドリック・ラマーとかチャンス・ザ・ラッパーみたいな最近のものは?

「すごい聴きますよ。でも、やっぱりあの頃(90年代)が黄金期ですよね」

——なるほど。バドやモンクの時代は、モダンジャズ黄金期。で、その歴史を汲んだヒップホップの黄金期が90年代。だから、QティップやDJプレミアたちは、バドやモンクと同じようなヒーローなんだ。

「自分のライブでも、ピート・ロック&CLスムースの〈They Reminisce Over You〉を、自分の考えた構成でコードを組み替えてやったりしました」

——トム・スコットをサンプリングしているやつね。

「そう! ヤバいんです、あのフレーズ。イントロが鳴った瞬間、わぁーっ! キター!! って(笑)。好きなものは耳コピして、自分の演奏にも取り入れます」

——なるほど。ビバップの演奏手法に“クォーテーション(他のジャズ曲などからフレーズを引用する)”ってあるけど、Mappyさんは“ジャズをサンプリングしたヒップホップ曲のフレーズ”も引用の対象なのね。そういえば、さっきも(近くにあったピアノで)、Nas「The World Is Yours」のピアノループを弾いてたでしょ。

「あ、わかりました? あのトラックもピート・ロック。元ネタはアーマッド・ジャマルですけど、その曲の切り取り方のセンスが神がかっていて、ピート・ロックは本当にすごい人だと思います」

——なんか、バド・パウエルの話をしてるときより生き生きしてるんですけど(笑)。

「でしょ? みんなに言われます(笑)」

——ところで、いま抱いている野望はあります?

「いまは、もっといろんなパフォーマンスをやりたいです」

——ピアノだけじゃなく?

「はい、歌もやりたいし、ジャズピアニストにこだわっているわけでは全然なくて、もっといろんなジャンルを勉強して、最終的には“自分の音楽”を創りたい。いまは、そんなことを考えていますね」

甲田まひる/Mappy(写真左)
2001年5月24日生まれ。ファッショニスタ、ジャズピアニスト。小学6年生の時に始めたインスタグラムをきっかけに、ファッションスナップサイトでブロガーデビュー。同じころ様々な雑誌のストリートスナップにも登場。ファッションアイコンとして業界の注目を集め、東京コレクションのフロントロウに招待される。以降、ファッション誌の連載やモデルとしても活躍。2017年から都内のライブハウスを中心にジャズピアニストとしての活動を開始。2018年5月にファーストアルバム『PLANKTON』でメジャーデビュー。http://mahirucoda.com/

島田奈央子(写真右)
音楽ライター/プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

 

Mappy『PLANKTON』

 


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