【Women In JAZZ】酒井麻生代「トランペットのような気持ちで吹く…」 フルートの可能性を追求する優艶プレイヤー

インタビュー/島田奈央子  構成/熊谷美広

2018.09.19

酒井麻生代 インタビュー

女性ジャズミュージシャンの本音に迫るインタビューシリーズ。今回登場するのはフルート奏者の酒井麻生代。2016年にメジャーデビューを果たし、今年7月には2作目となるリーダーアルバムを発表したばかりの彼女。ジャズ界ではめずらしいフルートという楽器と、どう対峙し、どんな表現を目指しているのか? 聞き手は“女性奏者の気持ち”が最もわかるライター島田奈央子。

スパルタ吹奏楽部に加入

──そもそもフルートを始めたのは、何がきっかけだったんですか?

「小学校の低学年のとき、担任の先生が産休に入られることになって。そのときに、みんなの前でフルートを演奏してくれたんです。それに感動したのが最初です。私の親もクラシックを聴いていたので、フルートの曲集とかCDとかをいっぱい買ってもらって。リコーダーでフルートのパートをコピーしたりしていました」

──リコーダーで?

「はい(笑)。その間、親には『フルート欲しい〜』ってずっと言い続けて。小学校6年生のときにやっと買ってもらって」

──フルートって、良家の子女がやっているイメージがあります。

「うちの親は普通のサラリーマンです(笑)。それで、家から歩いて30秒くらいのところにたまたま“フルート/ハープ教室”というのがあって、そこに通い始めました。これも運命的なのかな(笑)」

──実際にフルートを習い始めて、どうでした?

「のめり込みましたね。すぐに曲とかも吹けるようになりました。その後、中学校からは吹奏楽部に入って、そこがまたスパルタで有名な吹奏楽部で。ものすごく練習しました。先輩もメッチャ恐くて(笑)。でも、いま思うと、その環境もすごく良かったのかなって」

──高校に入ってからは?

「本格的にクラシックの道に行きたくて、神戸まで習いに行ってました」

──吹奏楽部には入らなかった。

「その頃、吹奏楽の活動はやめていました。周りの音が大きくて、吹き方が少し乱暴になってしまうなどのアドバイスもありまして」

──そのままクラシックの世界を目指して大学に進学したのですか?

「そうですね。関西だと大阪教育大学に行きなさいって師匠に言われて。勉強がんばって、練習がんばって、なんとか入れました。それで大学のときにジャズピアノをちょこちょこ聴くようになったんです。で、ビル・エヴァンスとかが好きになって…」

──まさか、ピアノを弾きたくなったとか?

「そうなんです。卒業後はOLをしていたんですけど、夜にジャズピアノの先生に習いに行ってました。でも仕事をしているから全然練習ができなくて。しかも両手で弾くのが難しくて(笑)。途中からは、なぜか先生が伴奏して、私がフルートを吹くというスタイルのレッスンになっていきましたね(笑)」

──あはは。でも、それがきっかけでジャズ・フルートに開眼した。

「ピアノでハーモニーを学びつつ、ソロとかはフルートで吹けるように、という感じでレッスンを受けてました。そんな感じでやっていくうちに、ライブをするようになって、週末は結婚式でフルート吹く仕事をしたり。そのときに“ジャズを吹いてください”っていう依頼も多かったので、真剣にジャズ・フルートも勉強し始めたら、どんどんジャズにハマっていったという感じです」

バイトとフルートの日々

──その時点で、クラシックはやらなくなった?

「そうですね。ジャズとクラシックとでは吹き方も奏法も違うし、タンギングとかも変わるので“ジャズもクラシックも”っていう中途半端な気持ちではできないと思います」

──その後、活動の拠点を東京に移して。

「親が定年で、昔住んでいた家に戻ることになって。そんなに大きくない家だったので、それをきっかけに東京に出てきました。ジャズ・フルートの先生に習いながら、バイトもメッチャしてましたね。そのうちにライブをするようになって」

──ミュージシャンを目指して東京に来る人って、最初はどうやってライブをやったらいいのか、わからないことも多いのでは?

「私の場合は、フルート教室の受付とか、六本木のジャズ・クラブの店員さんとか、いろんなバイトをやって。そのジャズ・クラブで、店長が飛び入りで参加させてくださったりして。そうこうしているうちに、すごいスピードでいろいろなミュージシャンの方と知り合うようになって、いろいろなところに出させていただけるようになりました」

──ライブのスケジュールを見ると、けっこう大御所との共演も多いですよね。

「大御所の方と共演させていただくと、その繋がりも大御所の方だったりするので(笑)」

──そういう大御所の人たちって、恐くないですか?

「恐い人もいますけど、すごく勉強になることも多いので、ライブが終わったら自分から『アドバイスください!』って訊くようにしています。たとえば、横にいるだけで“ジャズの匂いがする人”っているんですよ。一音吹くだけで空気が変わるというか…、この人たちはどういう経験をしてきて、どんな空気を吸ってきたのだろう? って思えるような、すごい人」

──そんな相手と一緒に演奏するのは、相当な度胸とエネルギーが必要ですよね。

「はい。近くにいるだけで『すべてを見透かされているんじゃないか?』と思って、ドキドキしますね。この前も、新宿ピットインで植松孝夫さんと一緒にやらせていただいたんですけど、ウォーミングアップの音だけでビビりました(笑)。けど、そういう人たち対して『私も同じステージに立ってる、自分だからできる表現があるはず』って思い込んで、自信を持ってやるしかないです」

──ジャズとクラシックは、まず「アドリブの有無」という点で大きく違いますよね。

「最初は“ジャズっぽくしたい”という気持ちだけが先行して、アドリブが譜面になった教則本をそのまま吹いたり、誰かのプレイをコピーしたりしていましたけど、吹き方のニュアンスとか、アクセントの付け方、リズムのフィーリングができていないから、それって全然ジャズっぽく聴こえない。そこは苦労した点ですね」

──クラシックの世界と、ジャズの世界って、しきたりとかの違いはありますか?

「まったく違いますね。クラシックの世界は、年長の人が仕切っていて、若手が出て来にくいところはあるのかなって感じます。でもジャズの場合は、実力勝負で、年齢と関係なくできると思います」

──では、ただの「男性」として観たとき、クラシックをやっている人と、ジャズをやっている人の違いって、ありますか?

「難しい質問ですねぇ(笑)。一概には言えないですけど、ジャズの人はけっこうストレートというか、下ネタとかも普通に言うし、陰湿さみたいなものは感じないですけど…」

──クラシック界は、その逆?

「うーん、クラシックはけっこうガチというか…(笑)。ジャズの現場はまだまだ男性プレイヤーが多くて、会話してると『あれれ? みんな私のこと女性ではなくオヤジだと思ってるんじゃないかな?』と思うこともしばしば(笑)」

最新作の“ジャズ濃度”

──普段はどんな音楽を聴いているのですか?

「私はけっこうオール・ジャンルを聴いていますね。ジャズ、クラシックはもちろん、ファンクやラテンも聴きますし、あとフラメンコとかも」

──最近ハマっているミュージシャンはいますか?

「少し前に、ジョン・コルトレーンの未発表音源が出たじゃないですか? その流れでコルトレーンを聴いていることが多いですね。昨日もジャズ喫茶に行って、ママに『コルトレーンを爆音でかけて』ってお願いして(笑)」

──今回のアルバム『展覧会の絵』も、前作に続いて、クラシックの楽曲をジャズで演奏する、という内容になっていますね。

「これはプロデューサーのアイディアなんですけど、私も、もとはクラシックをやっていたということもあって」

最新アルバム『展覧会の絵』(ポニーキャニオン)

──クラシックの曲をジャズにアレンジするのって、難しいですか?

「難しいです。『この曲はこういうものだ』と思って吹いていたものを、全然違うリズムで、キーまで変えている曲もあるので。慣れるまでけっこう時間がかかりました。でもクラシックをやっていた頃はアドリブに対する憧れがあったから、苦労よりも喜びや面白さがの方が大きいですね」

──今作のほうが、前作よりも“ジャズ度”が高いと感じました。

「そうですね。今回はジャズ度を高めたいと思って、私もアレンジを考えて、ピアノの納谷嘉彦さんと相談しながら作っていきました」

──「白鳥の湖」では、納谷さんに『マッコイ・タイナーのように弾いてください』ってお願いしたとか。

「マッコイ納谷です(笑)。イメージどおりのアレンジになりました」

──自分的に“最大のチャレンジ”は、どんなところ?

「これまでレゲエとかも吹いたことがなかったし、自分なりに勉強しました。あと今回は吹き方もいろいろと研究しました。前回は“メロディをきれいに歌う”という感じで吹いていたんですけど、今回は音の切り方とか、自分なりにいろいろな吹き方や奏法でやってみたという感じです。ヒューバート・ロウズみたいに、どんなジャンルでも、なんでも吹けるようになりたいという気持ちも強かったので」

──ヒューバート・ロウズみたいに、声も入れたりとか。

「家では練習してますけど、まだまだです(笑)。たまにライブで盛り上がったときに、やってみたりはしますけど、女の子はあまりやらないほうがいいって言われたり(笑)」

──フルートって、楽器の音量自体が小さいと思うんですけど、バンドの中でどうやって自分の音を主張していくのですか?

「周りの音に負けないように、楽器を響かせて大きな音を出すには、どうすればいいか? このことは、いつも考えています。共演者の方たちには、こんな大きなフルートの音を聴いたことがないって、かなりビックリされますけど(笑)。トランペットのような気持ちで、思い切り吹くことにしていて、そうすると音が遠くに飛ぶというか、大きな音になりますね。ドラムの音が大きいなと思うこともありますけど、負けずに吹いてます(笑)」

──周りの音が大きすぎて、心が折れそうにならない?

「モニターの環境が良くないときはたまにありますけど、生音がちゃんと鳴っていれば、ある程度は聴こえるので。周りのせいにしてもしょうがないし、がんばって吹いてます(笑)」

フルートは“痩せる楽器”?

──スケジュールを見ていると、毎日のようにライブが入っていますけど、体調管理も大変では?

「よく寝ることが一番ですね。そして、よく食べること。咳が出るとフルートが吹けなくなっちゃうので、そこは気をつけています。あとはヨガをやってます。肺とか横隔膜を広げるのにいいですね。リラックスもできるし」

──ライブ後に食事に行ったりすると、時間も遅くなって大変ですよね。

「ああ、よくラーメン食べに行ったりしますね…。リハ後にもがっつり食べて、ライブが終わっても食べるという(笑)。ツアー先でもおいしいものも食べられるし、ついつい…」

──体調よりも体重管理の方が大変とか?

「体重はあまり気にしていないです。フルートって、どの楽器よりも肺活量がいるから、たぶん“痩せる楽器”なんじゃないかと思うんですよ。太ったジャズ・フルート奏者って、見たことないですから。ある雑誌に、アンチエイジングにフルートがいいって書いてあったんですけど、有酸素運動と同じ状態なんだそうです」

──唇や歯のケアなどは?

「最近、やっと自分に合いそうなリップが見つかりました。私は化学製品がダメみたいです。フルートは金属だから、唇が荒れていたりすると、当たると痛いんです。あと口紅とかもあまり付けられないかな」

──管楽器奏者は、ライブ前の飲み物にも気を遣うという話を聞いたことがあります。

「そうですね。オレンジジュースなんかは、酸味と甘みで唾液が出ちゃうからライブ前には飲まないですね。コーヒーは大丈夫かな。でも楽器への着色が心配なので、歯磨きを推奨します(笑)」

──お酒は?

「お酒も大丈夫です(笑)。私は本番前には飲まないですけど」

──ライブでの、衣装へのこだわりなどはありますか?

「最近、ハイヒールを履かなくなりました。ある女性プレイヤーの方に『ジャズをやるんだったらヒールを履いてちゃダメだよ』って言われて。あと『吹いているときに足でカウントを取りなさい』という先輩もいて、ハイヒールだとそれがけっこう難しくて。それでペタ靴でやったら、みんなに『小っちゃくなったね』って言われました…(笑)」

──でも、良い効果はあった。

「はい。下半身に力が入るというか、どっしりとした感じで吹けますね。でもやっぱりオシャレもしたいですから、会場やお店の雰囲気によっては履いていいかもしれないですね」

──靴が変わると、衣装全体にも影響が出てくるのでは?

「銀座や六本木のお店でやっていたときは、わりとオシャレもして。ボーカルの横で吹いたりもするので、あんまり汚い格好はできなかったんですけど、最近は出演するお店も変わってきたので、ジーンズとか、けっこうカジュアルな感じで。衣装もずいぶん変わったので、みんなにビックリされてます(笑)」

──10月にツアーが予定されていますね。

「はい、今回はブッキングも全部自分でやりました。ミュージシャンのスケジュールとか、移動手段も考えなきゃいけないから、たいへんです(笑)。でも素晴らしいミュージシャンの方たちと一緒に回れるので、とにかく頑張らなきゃ! って張り切ってますね」


酒井麻生代/さかい まきよ (写真右)
フルート奏者。学生時代はクラシックを学び、独奏のほか、吹奏楽団やオーケストラに所属し演奏活動を行う。大阪教育大学(教育学部教養学科芸術専攻音楽コース)を卒業後、2011年にボストンへ短期留学。2013年より、活動拠点を東京に移し、岡淳氏、グスターボ・アナクレート氏に師事。 2016年に初のリーダーアルバム『Silver Painting』(ポニーキャニオン)を発表。翌年には、17名の女性ジャズミュージシャンで構成されるJazz Lady Projectに加入し『Cinema Lovers』(キングレコード)をリリース。同年、ジャズビブラフォンの第一人者である赤松敏弘氏のアルバム『Synonym』(ベガミュージックエンタテイメント)に参加。2018年7月にセカンドアルバムとなる『展覧会の絵』(ポニーキャニオン)を発表する。

島田奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー/写真左)
音楽ライター/プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

【酒井麻生代 ライブ情報】

https://ameblo.jp/flu-ty/


酒井麻生代『展覧会の絵』(ポニーキャニオン)


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