投稿日 : 2019.04.09 更新日 : 2019.12.03

sax triplets ─目指すは“女性から支持される”パーソナリティ 【Women In JAZZ/#8】

インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/山下直輝

sax triplets/インタビュー

女性ジャズミュージシャンの本音に迫るインタビューシリーズ。今回登場するのは、寺地美穂、堀江有希子、河村緑という3人のサックス奏者によるユニット、sax triplets(サックス・トリプレッツ)。

ソロ・アーティストとしても活躍する3人が、2014年に結成したこのユニットで、2月に初めてのフル・アルバム『Make it Move』をリリースした。3サックスという珍しい形態のユニットで、彼女たちはどんな表現を目指すのか。聞き手は“女性奏者の気持ち”が最もわかるライター島田奈央子。

「一緒に練習しよう」から始まった

──このグループを結成したきっかけは? 

河村 緑 もともと私がユッコ(堀江有希子)ちゃんと(寺地)美穂ちゃんを別々に知っていたんです。みんな同い年で、当時は3人とも黒髪のショートカット。だから他のセッションとかでもよく間違われたりしてたんですよ。そんな3人を合わせたら面白いかもって思って、あるセッションに2人を誘って参加したのが始まりです。

寺地美穂 そこで一緒に音を出してみて、深夜のセッションだったのでいい感じにお酒も入って(笑)、せっかくだから3人で一緒に練習をしようっていう話になりました。そこからライブもやろうよっていう話になって、動き始めたのが5年くらい前ですね。

河村 最初のライブをやるときに、宣伝用に3人で写真を撮ったんですけど、その写真を、今回のアルバムもプロデュースもしてくださっている小池修(注1)さんが見て、気をかけてくださって。「これ、続けていこうよ」って。1回だけライブをするつもりだったのに「えっ、続けていくの?」って感じで(笑)。

注1:小池 修(こいけ おさむ)/サックス奏者。1959年 広島生まれ。1978年に上京後、松本英彦氏に師事。日野皓正グループを経て、渡辺貞夫グループ、熱帯JAZZ楽団などでも活動するほか、杏里、シング・ライク・トーキング、郷ひろみ、Misia、古内東子などのポップス作品にも数多く参加。

──小池さんとは、以前から面識があったのですか?

河村 私とユッコちゃんは、小池さんにサックスを習っていました。

向かって左から、堀江有希子、寺地美穂、河村緑。

──2017年に『LOVE POP COVERS』というミニ・アルバムをリリースしていますね

河村 雑誌の連載で、私たちがポップスのカバーを3管でやるという企画があって、そこで取り上げた曲を集めたものです。あのCDがあったおかげで、今回のオリジナル・フル・アルバムに繋がったと思います。CDが売れないこの時代に、3回ぐらい再プレスになるほどの好評をいただいたので、小池さんが「だったらフル・アルバムを作ろうよ」って。

──今回のアルバム『Make it Move』は、クラウドファンディングで資金を集めて制作していますね。

河村 ちょうど日本でもクラウドファンディングが広がりつつあったので、それで制作費を募って作ることになりました。

sax triplets『Make it Move』(エスティーエム・レコーズ/ヴィヴィッド・サウンド)

寺地 ありがたいことに、募集を始めて1週間ぐらいで目標額に届きました。最初は「10%もいかなかったらどうしよう…」とか弱気だったし(笑)、クラウドファンディングというシステム自体も、リスナーの方にどう思われるんだろう……って心配だったりしたんですけど。

自然に決まった“担当と立ち位置”

──3人の役割分担はあるんですか?

寺地 トップのメロディを吹くのはだいたい私の役目で、ユッコちゃんがハーモニー。緑ちゃんはテナーなのでボトムを、というだいたいの役割は決まっていますけど、みんな曲も書くので、曲によってそれぞれがフィーチャーされる感じです。

河村 そこは自然に、というか「なんかそうだよね」みたいな感じで。

寺地 3人の立ち位置(並び)も、自然に決まっていきましたね。

──センター争いとかはなかった?

寺地 そういうのはないです(笑)。

堀江有希子 「なんかこの立ち位置が落ち着くよね」って、ごく自然に(笑)。

sax triplets/サックス・トリプレッツ
3人のサックス奏者、堀江有希子(as)、寺地美穂(as)、河村緑(ts)によるユニット。2014年に活動を開始。2017年には洋楽カバーで構成されたミニ・アルバム『LOVE POP COVERS』をリリース。2019年2月に初のオリジナル・フルアルバム『Make it Move』を発表。

河村 自分のプレイが前に出る楽曲だったら、視覚的にもお客さんに楽しんでいただくために、真ん中に行ったりはしますけど。

寺地 そのあたりは、わりと譲り合いですね。真ん中にいる私が言うのもなんですけど(笑)。

河村 真ん中にいる人がそういう精神だから、バランスが取れるてるんじゃないの?

寺地 あ、そうなの!?(笑)。

──衣装は3人で決めているのですか?

寺地 今回はアルバムのためにスタイリストさんにお願いしましたけど、普段のライブでは、3人で「どうする?どうする?」って考えて、一緒に買いに行ったり。

堀江 色とコンセプトだけを決めて、あとは各自が自由に選んでくる、という感じが多いですね。

──ファッション的に、それぞれ傾向の違いはありますか?

河村 美穂ちゃんが “脚出し” 担当です(笑)。

河村 緑/かわむら みどり
大学でクラシック・サックスを学び、卒業後にジャズ、ファンク、R&B、フュージョンなどの音楽に出会い、自身の音楽性を大きく変える。これまでに石井竜也(米米CLUB)、KinKi Kids、SKY-HI(AAA)、チャラン・ポ・ランタン、ゆずなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。ソロ活動とsax tripletsを中心に、セッションやビッグバンド、アーティスト・サポートなど幅広く活躍。

寺地 ……はい。肌を出す担当なんです(笑)。周りから脚を出せってよく言われるので、もう開き直って(笑)。

堀江 私はモード系だったり、マニッシュなものが好きなので、そのスタイルはできるだけ崩さずに。でも、腕を出しなさいって言われたら、がんばってちょっとだけ出してみたり(笑)。

河村 私はソロでの活動が少ないので、自分をどう見せたいとかがあまりなくて、コロコロ変わってますね。だから2人に「助けてー!」って(笑)。ちょっと前までは髪が長かったので、その時はAラインのスカートとかが多かったかな。

堀江 可愛くて元気のある感じだよね。

河村 ライブでは元気担当なので(笑)。

──河村さん、いきなり金髪になりましたよね。

河村 ノリで(笑)。ジャケット写真では、髪がちょっと長いじゃないですか。じつはユッコちゃんがショートにしてこなかったら、私がショートにしようと思ってたんです。でもユッコちゃんがショートにしたので、さすがに3人中2人が同じはないなと思って、美容院に行ったら、美容師さんに「金髪が似合いそうだよね」って言われて、その場のノリでショートの金髪にしてみました(笑)。金髪は人生初です。

──ほかに、ルックスの面で気を使っていることはありますか?

河村 サックスをやっていると、やっぱりネイルは目立つからと思って、毎月ネイルサロンに通ってジェルとかいろいろやってたんですけど、吹くときに気になって、結局やらなくなっちゃいました。

寺地 私もできるときはやってますけど、小指の爪とかが長いとキーに引っかかるので、切っちゃいますね。

堀江 私は普段は何もしていなくて、ライブとかで気合いを入れたいときとか、自分のテンションを上げたいときには、奇抜な色を塗ったりしてます。指輪は、邪魔になるのでつけないですね。

堀江有希子/ほりえゆきこ
兵庫県淡路市出身。幼少よりエレクトーン、12歳よりサックスを始め、大阪音楽大学音楽学部器楽学科でサックスとクラシック音楽全般を学ぶ。卒業後はクラシック音楽を中心に演奏活動を開始し、2010年よりファンク、R&B、ポップスなど、さまざまなジャンルでのライブ活動を始める。2013年に上京し、自身のリーダー活動を中心に、多様なアーティストのサポートやレコーディングなども行っている。

──サックスを吹く女性にとって、唇のケアも重要ですよね。

寺地 以前はベタベタするのが嫌で、なにも塗ってなかったんですけど、最近は気にせず、塗ったまま吹いてます。キャンディ・ダルファー(注2)が気にせず吹いてて、マウスピースがすごいことになってるんですよ(笑)。だからそれでいいやって思って。

注2:オランダ・アムステルダム出身の女性サックス奏者。14歳でオリジナルバンドを結成後、マドンナやプリンスのバックバンドにも参加。ファーストアルバム『サクシュアリティ』(1990)はミリオンセラーとなりグラミー賞にノミネート。

堀江 私も最近はリップをつけますね。口元だけ顔色が悪いみたいになっちゃうのが気になるので。だからメイクさんが一緒の現場だったりすると「落ちにくいリップとかってありますか?」って聞くようになりました。

寺地 いま、管楽器女子がよく使ってるシャネルのリップがあるんです。ベタベタしないマットなものが。

河村 私はあまり興味がないですね。リップクリームすらつけないです。サックスを練習していると、唇の新陳代謝も良くなって、プルプルの状態をキープできるんです。逆に旅行とかで2、3日サックスを吹かないと、唇がカサカサになってきます。

踊りたい。そして踊らせたい

──サックス女子3人が集まってみて、良かったなって思うところは?

堀江 ふだんは3人が別のエリアで活動しているので、それぞれ別の場所にいるお客さんが集まって来てくださるのは面白いなって感じます。そして私たちのライブに来てくださったお客さんが皆さん、とにかく楽しいって言ってくださるので、それは3人のなせる技かなって思います。緑ちゃんがいなかったら私、ステージで踊ったりすることもなかったと思いますし(笑)。

河村 踊りたいし、踊らせたい(笑)。ふだん私が活動しているのはポップスのフィールドが多くて、じつはプロとしていちばん最初のキャリアになったのが、石井竜也さんのサポートだったんです。だから最初から、ステージでは踊るもんだって思ってました(笑)。そうすることで、お客さんが喜んでくれるということも知っていますし、3人いればずっとサックスを吹き続けているわけでもないので、だったら吹いていないときは踊ろうよ、って(笑)。

──踊りながらサックスを吹くのって、けっこうたいへんじゃないですか?

河村 今年2月のライブのときに、初めて、振り付けの方にお願いしてみたんです。2曲だけでしたけど、まぁ疲れること(笑)。でも少しずつ、慣れそうかな。

寺地 前の日、他のライブの楽屋で、鏡の前で振り付けの練習をしてました(笑)。

寺地美穂/てらちみほ
高校の吹奏楽部でアルト・サックスを始める。ニューヨーク留学中に演奏活動を始め、2011年に舞台『オーデュボンの祈り』で女優としてデビュー。2016年に、米米CLUBのフラッシュ金子のプロデュースによるメジャー・デビューアルバム『Beautiful Magic』(ビクター・エンタテインメント)をリリース。2018年にギタリスト皆川太一とのユニットで『URBAN GROOVE SESSION』(クラフトマンレコーズ)をリリース。またエリック・ミヤシロ率いるBlue Note Tokyo All Star Jazz Orchestraや、平昌五輪の音楽監督でもある梁邦彦のサポートメンバーとしても活動。

──今後、sax triplets としての目標はありますか?

河村 女の子も来てくれるようなライブにしたいですね。

堀江 女性から支持されるようなパーソナリティになりたい、という気持ちもありますし、それを3人で目指していけたらいいなって思います。私たちのライブに来てくれたら、楽しいし、元気になるし、明日からがんばろうって思えるような存在になれたらいいなって。

寺地 キャンディ(ダルファー)とか見ると、圧倒的にカッコいいですもんね。女性ファンも多いじゃないですか。もちろんプレイもすごく努力していると思うんですけど、ビジュアルとかにも相当気を遣っていると思いますし、トータルなエンターテインメントとしてすごいセンスの人だなって思います。

──サックス女子たちにも憧れられるような存在になれそう?

河村 なりたいっ!

堀江 そして、最新アルバム『Make it Move』も、ぜひ聴いてください! 私たちの5年間が詰まった、自信を持っておすすめできる1枚だと思いますので。

sax triplets
『Make it Move』
(エスティーエム・レコーズ/ヴィヴィッド・サウンド)

【オフィシャルHP】 http://saxtriplets.com/

左から、堀江有希子、寺地美穂、島田奈央子(インタビュアー)、河村緑
島田奈央子/しまだ なおこ
音楽ライター/プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

取材協力:石森管楽器

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