投稿日 : 2020.09.24

RINA ─在NYの邦人ピアニスト、国際コンテスト準優勝を経てデビュー作発表【Women In JAZZ/#25】

インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/平野 明

RINA インタビュー

期待のニュー・カマーの登場だ。ピアニストのRINAは国立音楽大学で小曽根真に師事。その後、ボストンのバークリー音楽大学に留学し、2018年には、世界的な新人ジャズ・ピアニストの登竜門でもある「エリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティション」で準優勝。

そしてこの9月、小曽根真プロデュースによるアルバム『RINA』で、ワールドワイド・デビューを果たした。

最初は「ピアノ椅子の高さ合わせ」から始まりました

──現在、ニューヨークを拠点に活動していますが、どんな経緯で?

ボストンのバークリー音楽大学を卒業後、ずっとニューヨークで活動しています。卒業する前の2018年に「エリス・マルサリス・インターナショナル・ジャズ・コンペティション(注1)」で2位を受賞したんですけど、それがきっかけになって、お仕事のオファーがたくさん来るようになりました。

注1 :ジャズ・ピアニストで教育者のエリス・マルサリス(2020年4月1日、新型コロナウイルス感染に伴う合併症のため死去)の名前を冠した、国際的ジャズ・ピアノ・コンテスト。米マーシャル大学と「The Nu Jazz Agency」が主催。3年おきに開催され、才能ある若手ピアニストの発掘を目的としている。RINAは2018年のコンテストで2位を獲得。

──ピアノを弾き始めたのは、いつ頃から?

3歳ぐらいから高校を卒業するまで、ずっとエレクトーンをやっていて、コンクールにも出ていました。

──ジャズを演奏するきっかけは?

私はコンクールから音楽に入ってきていたので、自分の殻に籠っていたんですね。たとえば「賞を獲るために、こうしなきゃいけない」とか「音楽はこういうものだ」とか決め付けて。ところがあるとき、もっと自由に音楽がやりたいって思って、そこからジャズ・ピアノを聴き始めたんです。コンクールのためだけじゃなくて、音楽って好きなことを自分で表現できるもの、自分を解放できるものなんじゃないだろうかって。

──それまでエレクトーンだけで、ピアノはやっていなかった?

指を鍛えるために少しはピアノも弾いていたんですけど、その時は全然好きじゃなかったし、難しいだろうなって思ってました。でも高校3年生になって、国立音楽大学に新しくジャズ専修ができるという話を聞いて、そこに行きたいと思って本格的にピアノに向かい始めました。すると、ちょうどジャズ専修の夏期講習があるというので参加したら、そこで小曽根真(注2)さんと出会ったんです。それで、もうここに入るしかない、と。

注2 : ピアニスト。1961年3月25日神戸市生まれ。1983年にバークリー音楽大学ジャズ作・編曲科を首席で卒業。同年米CBSと日本人初の専属契約を結び、アルバム『OZONE』で全世界デビュー。1989年に帰国後も国際的に活躍し、2005年からは自己のビッグ・バンド“No Name Horses”での活動も始める。2011年より国立音楽大学演奏学科ジャズ専修教授に就任。2018年紫綬褒章受章。

──小曽根さんとの出会いが大きかった。

その夏期講習の課題曲がブルースで、それで初めてブルースというフォームを知りました。それまで私は好きに弾いていただけで、ジャズの勉強をしてこなかったし、例えばマイルス・デイビスもよく知らなかったし、リズム・チェンジって言われてもよくわからなかった。それでも小曽根さんと一緒に弾くとすごく楽しいんですよね。これはもうジャズをやるしかないと思って大学に入学して、小曽根さんに4年間教えていただきました。

──大学で小曽根さんからどんなことを学んだのですか?

小曽根さんはまず「RINAはタッチも弱いし、椅子の高さすら合っていないよ」って(笑)。だからジャズのレッスンというよりも、まず椅子の高さを合わせるところから始まって、ピアノの構造を教えていただいて。

──まさに一から教えてもらった。

そうです。ただし、勉強という感じではなくて、自分の中にあるものを表現していく楽しさを知っていくという感じでした。小曽根さんは「こう弾きなさい」とは言わずに「こういうものもあるよ」って、ご自身の持っているものを全部シェアしてくださるんです。

小曽根さんがレッスンで演奏してくださったものを全部コピーして練習して、自分のものにしていきたいって思ってやっていきました。それをひとつクリアすると、次の週にまた新しいことを教えてもらえるので、とにかくピアノのことだけを考えていましたね。

──小曽根さんの教えで、特に印象に残っていることはありますか?

まず、ソロは “練習してきたものを披露する”ことではない、と。それは会話と同じで、自分が発している音を相手が聞き取って、それに応えていくのがアドリブ。だから、次はこう弾こうと考えるよりも、自分が感じたものを表現していくことが重要なんだと。

あと、ピアノって息継ぎがない楽器だから、とにかく歌うことを心がけるようにとも言われました。ただ弾き続けるのではなくて、しっかり歌って、自分が何を発信したいのかをピアノで表現していくことが大切だって。

ニューヨークが自己を解放してくれた

──アメリカの(バークリー)音楽大学に行こうと思ったのは、どんなきっかけで?

大学3年生の時に、小曽根さんから「卒業したら、どうする?」って訊かれて。そのときの私はまだ何も考えていなかったんですけど、「アメリカ行ってみる?」って言われて「あ、行きます!」って(笑)。小曽根さんが言ってくれたんだから、もう行くしかないだろうって。もちろんお金の問題とか、英語の問題とかありましたけど、「行きたい」っていう気持ちが強くて。

──行ってみて、どうでしたか?

「こうしなさい」とかいうのがないんです。先生たちの持っているものを全部シェアしてくれて、「好きなものを自分で取っていきなさい」って。だから、自分が求めるものが明確でないと、何も得られません。あと、バークリーの学生選抜でライブをやったり、先生方のツアーに連れて行ってもらえたりするんです。そこから演奏活動に繋がっていくということが、たくさんありましたね。

──そういった実戦の場で、いちばん印象的な出来事は?

ラルフ・ピーターソン(注3)がスイスでツアーをやることになって、学生からメンバーを選んで私も参加させてもらったんですね。すごく楽しかったんですけど、彼も「その場で何ができるか?」を常に考える人なので、リハーサルの30分くらい前に「この曲できる?」って言われて。「できないです」とは言えないので、その場で急いで覚えましたね。

注3 : ジャズ・ドラマー。1962年5月20日、アメリカ・ニュージャージー州出身。1985年に若手の精鋭を集めたグループ“OTB”に参加して注目を集める。その後もソロ・アーティストとして、また様々なセッションで活動。またバークリー音楽大学の講師も務めている。

──ほかに苦労したことは?

言葉ですね。授業を受けていても最初はワケがわからなかったです(笑)。はじめの3か月間は英語の集中講義を受けていたんですけど、学生はアジア人が5人で、その中でもいちばん喋れなかったんです。ということはバークリーの中でいちばん英語が喋れないんだと思って焦りましたね。ルームメイトがアメリカ人だったので、その子にいろいろ教えてもらいながら、ネット翻訳も使って会話をしていました。

──アメリカでの生活は、RINAさんに何をもたらした?

それまでの私は、自分から発信することができなかったんです。自分の言葉が人にどう思われるのか、すごく気にしていました。それを解放してくれたのがニューヨークかなって思います。

自分でも驚きのアルバム内容

──デビュー・アルバムの『RINA』について教えてください。

収録曲は、このアルバムのために作った曲が多いですね。今回、ジェローム(・ジェニングス)さんと(中村)恭士さんとレコーディングすることが決まって「彼らと演奏できるのならこういう曲がやりたい」と思って書いたものも多いです。

RINA『RINA』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)

──ソロ・ピアノで演奏される「Tale Of Small Wishes」もすごく素敵なメロディだと思いました。

あれは自分でも「こんな曲をよく書けたな」って思っちゃうぐらい。アルバムを作るに当たって、これまでとは違った曲が書きたいと思ってクラシックを弾き始めたら、こういう曲ができました。だから自分でも驚いていますし、レコーディング直前までちゃんと弾けなかったんです(笑)。

──今回のレコーディングで、小曽根さんのプロデュースはどんな感じでしたか?

レコーディングの4日間はずっとスタジオでディレクションをしていただきました。でも最初に言われたのは、「RINAがやりたいことをやろう」っていうこと。それから、メンバーは誰とやりたいか、どんな曲を書きたいかを全部俺に伝えてくれ、って。その上で小曽根さんは「この曲はピアノのソロが多い」とか、逆に「ピアニストのアルバムなのにベースが多い」といった、細かいアドバイスもくださいました。

──結果的に、RINAさんの「やりたいこと」はうまく表現できましたか?

そうですね。このアルバムに収められているのは、私の中でストーリーを作って書いた曲。なので、そのストーリーをいろいろな人たちとシェアしていきたいですし、私の曲で、皆さんの素直な感情をひとつずつ繋げていけたらいいなって思います。

【RINA 公式サイト】
https://rina-official.com/

RINA/りな
埼玉県出身。国立音楽大学ジャズ専修1期生として入学し、小曽根真に師事。2018年バークリー音楽大学を卒業。 2018年エリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティション2018にて13カ国/160人以上の参加者の中から7人のファイナリストに選ばれ、第2位受賞し、最優秀作曲賞も受賞。アメリカCBSの人気テレビ番組「ザ・レイトショー・ウィズ・スティーブン・コルベア」のハウス・バンドの一員に抜擢されて3日間連続出演。オバマ大統領夫人のミシェル・オバマをゲストに迎え演奏を披露した。2020年9月、小曽根真プロデュースによる『RINA』で全世界デビュー。

島田奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。