投稿日 : 2020.11.09 更新日 : 2021.12.03

梅垣ルナ ─ゲーム音楽とジャズ・フュージョン。多才なキーボード奏者の初ソロ作【Women In JAZZ/#26】

インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/平野 明

梅垣ルナ インタビュー

梅垣ルナは、これまで数多くの「ゲーム音楽」を手がけてきた作曲家。その一方で、自身のフュージョン・ユニット “Lu7”でも活躍する鍵盤奏者である。そんな彼女が、アルバム『つきのおと』を発表した。5人の女性プレイヤーを迎えた本作は、彼女にとって初めてのソロ・アルバム。一体、どんな中身になっているのか。

名前の由来は「夜空を照らす月」

──ルナさんというお名前は、本名ですか?

はい、本名です。夜道を照らす月のような存在になってほしいという意味が込められているみたいです(Lunaはラテン語で月の意味)。

──ロマンティックなお名前ですね。

子供の頃は、「変な名前」とかけっこう言われ続けてきました。大人になって、やっと自分の名前が好きになりましたね。

──最新アルバムのタイトルは『つきのおと』。お名前にかけてあるんですね。

そうです。ソロ・アルバムを出すのは初めてなので、とにかく自分の持っている音をすべて知ってほしいという意味で、このタイトルにしました。

梅垣ルナ 『つきのおと』(ベガ・ミュージックエンタテインメント)

──音楽を始めたのは、いくつぐらいから?

鍵盤を触り始めたのは2歳ぐらいですけど、その頃の記憶はなくて、実際に習いたいって言い始めたのが4歳ぐらいの時だったらしいです。そこからエレクトーンを習い始めて、同時にピアノも少し習っていました。エレクトーンはメロディ、伴奏、ベースなど全部を1人で構築できるのが楽しかったですね。もちろん、他の楽器とのアンサンブルも楽しかったですけど。

──作曲はいつ頃から?

高校3年生ぐらいですね。そこから音楽の専門学校に行って、本格的に作曲も学び始めました。

──当時、尊敬していた作曲家はいましたか?

何人かいるんですけど、自分の曲作りに影響を与えたのは、ドビュッシー(注1)と坂本龍一さんです。

注1 : クロード・ドビュッシー(1862-1918)。フランスの作曲家。長音階・短音階以外の旋法と、機能和声にとらわれることのない自由な和声法などを用いた独自の作曲法を確立。「月の光」「2つのアラベスク」「海」「夢」などの曲で知られる。

──その2人のどんなところに惹かれたのですか?

ドビュッシーは、5歳の頃にピアノの先生がたまたま「アラベスク」を弾いているのを耳にして、ステキだなって感じたんです。でも今みたいにインターネットで調べたりできる時代じゃなかったので、それがドビュッシーだと知ったのは中学生のときでした。それからドビュッシーをいろいろ聴くようになって、けっこうハマってしまいましたね。曲名と音のイメージが一致するのが面白いなって。

──坂本龍一さんは?

YMOはあまりよく聴いていないんですけど、ソロになってからの作品は和声の感じがすごく好きで、やっぱりすごいなって思います。『音楽図鑑』(1984年)とか、かなり聴き込みましたね。

私、コード進行オタクなんです

──ゲーム音楽を手がけるようになったのは、どんなきっかけで?

『アンジェリーク・光と闇のサクリア』というゲームがあるんですけど、そのキャラクターがアニメになってお喋りするというCDがあって。そのBGMをたまたまアルバイトで作らせていただくことになったんです。それぞれのシーンに合わせて曲を作るのがものすごく楽しくて、ゲーム・ミュージックって面白いかもって思いました。

──ゲーム音楽って、ありとあらゆるジャンルの作曲が要求されますよね。

そうですね。仕事としてゲーム音楽を作るようになってからは、先方の要望に応えるのが私の役割なので、毎回が勉強です。

──そこから、ソロ・アーティストとしてご自身の音楽を作り始めたきっかけは?

ゲームの中だけで音楽を作っていたら、それ以外の音楽に触れられなくなるかも…と感じて。それで、Lu7というバンド活動を始めました。

──Lu7は、どんな経緯で始まったのですか?

ゲーム音楽の仕事でご一緒したギターの栗原務さんと“デモを作ろう”ってところから始まりました。その後、バンドスタイルの音を目指して、2010年頃からベースの岡田治郎さんと、ドラムの嶋村一徳さんに参加していただいて。

──アーティスト活動を始めた頃に、こんな音楽をやりたいといった思いはあったのですか?

ジャンルは正直あまり意識していなくて。じつは私 “コード進行オタク”で、コード進行が美しければ結果的にどんなジャンルになってもかまわない、と。ただやっぱりタイトルと曲のイメージが一致しているような「だからこういう曲名なんだ」っていう、イマジナリーなものが作りたいとは思っていましたね。

──コード進行オタク(笑)って、具体的にはどんなことに執着するのですか?

気に入った曲があると、まずコードが気になる。それで、これはどんな響きだろうって耳コピーして「おぉ!これは斬新だ」とか(笑)。

アルバム『つきのおと』制作秘話

──今回のアルバムには、5人の、様々な楽器の女性プレイヤーが参加していますけど、どういう経緯で人選していったのですか?

今まで何かしらで関わって、接点があって、声をかけやすい方にお願いしました。メンバー全員が女性になったのは偶然なんです。ただ見え方として、女性がズラーッと並んでたらけっこう面白いな、とは思いました。

──楽曲は、このアルバムのために書かれたものが多いのですか?

そうですね。このアルバムのために作って、いきなりレコーディングしたという感じです。ただ「Crashed Pineapple」という曲だけは、18、19歳の頃に作った曲です。この曲を急に思い出して、これは KIYO*SEN(注2)のお2人に合うだろうなと思ってお願いしました。

注2 :鍵盤奏者の大髙清美と、ドラム奏者の川口千里によるユニット。

──参加メンバーに、特にリクエストしたことはあったのですか?

皆さんに好きなようにやっていただいたことが、いい結果に繋がったのかなって思います。(大髙)清美さんは「アッハッハ、私弾きすぎたかしら?」「いえいえ、それでいいです」って(笑)。清美さんは他にもいろいろなアイディアを持ってきてくださって、弾きながらハモりのラインをたくさん入れてくださるんです。とても美しいアイディアが多かったですね。逆に(川口)千里さんは遠慮がちで「こんなので大丈夫でしょうか?」って言ってたので、「好きにやってください!」って。好きにやってもらったら一体どうなるのか、そこにも興味があったので。

『つきのおと』特設サイト
https://tsukinote.info/

──参加の姿勢にも、それぞれの個性が出て面白いですね。

クラリネットの筒井(香織)さんは「不思議な木の実」で、クラリネットにはB管(キーがBフラット)とA管(キーがA)があるけど、「この曲はA管が似合うかも知れないから、そっちでトライしてみる」と。で、最終的にはリコーダーを2本重ねてくださったり。パーカッションの寺田(典子)さんは海外在住なので、ファイルやメールのやりとりで進行していったんですけど、みなさんがいろいろなアイディアを出してくださいました。

──やっぱり曲からインスパイアされるものがあるんでしょうね。

そうですね。それは嬉しいフィードバックでした。徳島(由莉)さんは、バイオリンという楽器だから、わりとおしとやかなイメージがあるんですけど、じつはけっこうざっくばらんな男性的な方で、気合いを入れて一気に録る、という感じで(笑)。結果的にものすごく気合いの入った演奏になってます。

──曲によっては、オリエンタルな感じだったりするものもありますね。

わりと土着っぽい音楽とフュージョンの融合っていうところが気になっていた時代があって、アル・ディメオラ(注3)の「Morocco」という曲を聴いた時に、エレクトリックなフュージョンっぽいサウンドと、土着的なものとの融合がすごく面白く感じて、こういうのが作りたいなって思いました。たぶんそういった面も出ているのかも知れませんね。

注3 :Al Di Meola/フュージョン・ギタリスト。1974年に19歳でリターン・トゥ・フォーエヴァーに加入して大きな話題となる。その後も超絶技巧とワールド・ミュージックの要素も盛り込んだ音楽性で、ソロ・アーティストとして活動中。「Morocco」は1991年の『Kiss My Axe』に収録されている。

──ソロで演奏されている曲も2曲ありますよね。

ソロ名義のアルバムを出させていただくからには、1人で弾いてトライした曲も入れたいなって思ったんです。「a little mentor」はソロ・ピアノで、「トラミイナミ」はエレクトリック・ピアノを3本重ねてます。

ライブステージでは裸足です

──ライブの見せ方などで、心がけていることなどはありますか?

Lu7のライブの時は、私が仕切っている感を出すために「トライバル・テック方式」をとってます。トライバル・テック(注4)って、キーボードのスコット・キンゼイが、ステージのど真ん中で鍵盤を弾いているんです。鍵盤弾きが真正面で弾くっていうのはけっこう珍しいって言われるんですけど、そういうのもありかなって。

注4 : スコット・ヘンダーソン(g)とゲイリー・ウィリス(b)によって結成されたハイテク・フュージョン・ユニット。1984年から活動を開始し、1993年にスコット・キンゼイ(key)とカーク・コヴィントン(ds)が加入して2000年まで活動。2012年に再結成した。

──ステージの中央に立つとなると、衣装のスカートなどは気にならないですか?

ミニスカートはもちろんNGですけど、長めのスカートかレギンスに膝丈のスカートで弾くことが多いですね。あと靴は履かないんです。

──え、裸足なんですか?

はい、裸足です。裸足でペダルもガシガシ踏んでます。でも裸足のままでステージに上がるのもちょっと変なので、ステージの中央までは薄いサンダルとかを履いて行って、こっそり脱いで裸足になってます(笑)。この間ライブで、裸足のままステージに出てしまって、最前列のお客様から「靴を忘れてるよ」って言われました(笑)。

──今後、こういう音楽をやってみたいとかいった目標はありますか?

まずはこのアルバムのライブをなんとか実現させたいと思っています。そこから先のことはまだわからないですけど、とにかく今は弾くこと自体がすごく楽しいので、できるだけ弾く機会、生演奏の機会を増やしていきたいですね。

インタビュー/島田奈央子
構成/熊谷美広
撮影/平野 明

梅垣ルナ/うめがきるな(写真左)
4歳からピアノ、エレクトーンを学ぶ。学生時代にドラマCD『アンジェリーク・光と闇のサクリア』の作曲を手がけたことがきっかけとなり、ゲームミュージックの世界に入る。その後「チョロQ」シリーズ、「ロックマンゼロ」シリーズ、「みんなのGOLF2」「ロビット・モン・ジャ」「レジェンド・オブ・ドラグーン」「こねこもいっしょ」などのゲーム・ソフトの音楽制作にかかわる。2001年からアーティスト活動も開始し、自らがリーダーを務めるユニット“Lu7”で5枚のアルバムをリリースする他、“Electric Guitar Quartet”などにも楽曲を提供している。
島田奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー/写真右)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

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