【デヴィッド・リンチ:アートライフ】隠しマイクで録ったD.リンチの本音

文/村尾泰郎

2018.01.23

タイトル
デヴィッド・リンチ:アートライフ
監督
ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード=ホルム
配給
アップリンク
公開日
2018.01.27

昨年、『ツインピークス The Return』が公開されて、大きな話題を呼んだデヴィッド・リンチ。しかし、映画監督は彼の一面に過ぎない。これまでリンチは、絵画、音楽、写真など、さまざまな活動を展開してきた。そんなリンチがアートとどう向き合ってきたのかを振り返るドキュメンタリーが『デヴィッド・リンチ:アートライフ』だ。

インタビュー嫌いとも言われているリンチだが、本作を制作するにあたって、2年半に渡ってリンチにインタビューを敢行。その際、友人と話すようにリラックスしてもらおうと、リンチにはカメラを向けず、隠しマイクで声だけを拾った。そして、映像ではアトリエで絵画やオブジェを制作している姿を紹介し、ときにはプライベートな写真や映像を使用。この手のドキュメンタリーによくある関係者の証言は一切なく、リンチの言葉と作品だけで彼の「アートライフ(芸術的人生)」に迫っていく。

家の近所だけが世界のすべてだった少年時代。父親と一緒にモノ作りを楽しんでいたリンチは、やがて世の中には芸術家と呼ばれる人々がいることを知り、芸術家になることを決意する。そして、友人と一緒にアトリエを借りて、ひたすら作品制作に打ち込んだ高校時代。リンチいわく「アートライフとは、コーヒーを飲み、タバコを吸い、ひたすら絵を描き続けること」だった。そうやってアートに打ち込みながら、リンチの心の中には常に得体の知れない恐怖や不安が渦巻いていたという。

子供の頃に体験した「日が暮れた後、口から血を流した裸の女性が通りに現れて近づいてきた」というエピソードは、リンチ的ともいえる崩壊していく日常の風景を思わせるし、その後、移り住んだボストンの家から一歩も外へ出られなくなった話からは、リンチの精神面の危うさが伝わってくる。だからこそ、「悪意を感じる街」フィラデルフィアに引っ越したことが、リンチに強烈なインスピレーションを与え、リンチは絵画からアニメ、そして、映画へと、その悪夢的ともいえる世界を広げていった。

本作で語られるのは、彼が初監督作品『イレイザーヘッド』(1977年)を完成させるまで。しかし、本作は映画ファンにとっても興味深い作品だ。リンチは「過去が創造力を彩る」と語っているが、リンチ・ファンなら、本作でリンチの過去の話を聞きながら「このエピソードは、あの映画に使われているのでは?」といろいろと推理する楽しみもあるだろう。リンチは「自分の人生は3つある」と語っているが、それは友人との人生、家族との人生、そして、芸術との人生で、それぞれまったく別の人生だとか。しかし、本人が分けようとしても、友人や家族との関係がアートに影響を与えていることが本作から伝わってくる。

リンチにとって、アートは外部の世界と自分の内面との折り合いをつける場所であり、自分を世界につなぎ止める重要な結び目なのかもしれない。眩しい陽射しが降り注ぐアトリエで、孫ほど歳が違う末娘に声をかけながら、黙々と作品を作り続けるリンチ。鬼才が10代の頃から実践してきたアートライフの秘密を、この映画が垣間見せてくれるはずだ。

 

■公式サイト
http://www.uplink.co.jp/artlife/

■作品情報
『デヴィッド・リンチ:アートライフ』
2018年1月27日(土)、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか、全国順次公開
監督:ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード=ホルム(『ヴィクトリア』脚本)
出演:デヴィッド・リンチ
原題:David Lynch: The Art Life
配給・宣伝:アップリンク
2016年/アメリカ・デンマーク/88分/英語/DCP/1.85:1
©Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016