投稿日 : 2021.05.28

【東京・神保町/On a slow boat to …】自家焙煎の深煎り珈琲が美味しい、気軽に利用できる音楽喫茶

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

On a slow boat to ...の写真1
いつか常連になりたいお店 #58

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2021年3月31日にオープンした『On a slow boat to…(オン ア スロウ ボート トゥ…)』を訪問。アナログレコードの響きとネルドリップの美味しい珈琲に包まれながら、ゆったりと自然体でいられるお店でした。

On a slow boat to ...の写真2

街の喧騒から程よく離れている神田猿楽町

神保町駅(東京都千代田区)から徒歩約7分、白山通りと明大通りに挟まれた神田猿楽町エリアにある『On a slow boat to …』。近年、神保町も中心部はビルの建て替えが進み、個性的なお店が減少している。一方、この周辺はポツポツと個人経営の店が増え始めているといった状況がある。同店もまた、2021年3月31日にグランドオープンしたばかりだ。

「ちょうど会社を辞める準備に入った頃にコロナ騒動が始まったんです。でも、準備に一年はかかると思っていたので、2021年になれば少しは落ち着いているだろうと。そこは予想が外れましたね」。そう笑うのは店主の白澤茂稔さん。

店内は落ち着いたグレーを基調とした色合いで、要所にアンティーク家具が置かれたシックで柔らかな雰囲気。曲線が美しいカウンターは8席、奥には4人がけのテーブル席もある。正面には小上がりのステージがあり、アルテック 620B モニターが鎮座する。目立つ場所に大きなスピーカーがあると、音楽へのこだわりが強そうで緊張してしまいそうになるが、店内が広いこともあり初めてでも気軽に入店できる。

On a slow boat to ...の写真3

「音楽と珈琲で、気分が落ち着く時間を提供したいと始めました。時間に追われて神経をすり減らしても、ここに来たら心が整うような、そういうお店にしたいんです」

このお店が文化の交差点になれたら

神保町という街を選んだのは、レコードを買いにくるなど学生時代から馴染みある場所であったことが大きい。

「かつては日本のカルチェラタンと呼ばれていた土地柄。大学も多く、さまざまな文化に関連する人たちを多く生み出した場所です。そんなところで、文化の交差点になれたらと思っています」

『On a slow boat to …』はプレオープンからすでにジャズ好きの間では話題になっていた。というのも、白澤さんはMOONKS(ムンクス)というジャズ鑑賞集団のメンバーであり、現在も『ジャズ批評』で音楽レビューをおこなっている。その世界では知られた存在なのだ。

On a slow boat to ...の写真4

ジャズのみならず、中島みゆきからキッスまで流れる

「姉の影響で小学生の頃からキッスやクイーン、エアロスミスなどを聴き始め、ずっとロックを愛聴していました。ジャズは社会人になった頃から聴き始めたんです。その後、結婚して吉祥寺に住んだことで、ジャズ喫茶『MEG』に通うようになって。そこで6人の仲間と出会って、頭文字を並べてMOONKSと名乗るようになりました」

メンバーの多くが転勤で東京にいないといった理由なども重なり、グループとしての活動は終えたというが、過去には衛星ラジオ『ミュージックバード』で番組を持っていたり、『JAZZとびっきり新定盤500+500』 という書籍も出版している。とはいえ、同店はゴリゴリのジャズ喫茶というわけではない。

「選盤に関しては、中島みゆきからキッスまでかけます。自分が一番熱心に聴いていた1970年代から80年代前半までのロックやポップス。さらにははっぴいえんどやサディスティック・ミカ・バンドなどの日本のロック。そして、ジャズですね。マンション暮らしということもあって、ジャズはCDが多くてレコードはそんなに持っていないんですよ。敷居の低い音楽喫茶を目指しています(笑)」

On a slow boat to ...の写真5

自家焙煎の深煎り珈琲をネルドリップで

ジャズではサックス奏者のバルネ・ウィラン、ピアニストではハロルド・メイバーンが好みだという白澤さん。素晴らしい音響でアナログレコードが聴けるだけでなく、『On a slow boat to …』ではネルドリップの深煎り珈琲が美味しいことも大きな魅力。ブレンド含め、8種類近く用意されている豆はすべて自家焙煎だ。

「珈琲は小学生の頃から好きで、社会人になる頃には自宅で焙煎するようになっていました。お店を巡るのも趣味で、表参道にあった大坊珈琲店が大好きでした。個人的にはイエメンのモカマタリが好きなのですが、政情不安で供給が不安定なので出されるお店が少なくなっています」

On a slow boat to ...の写真6

ここまでの話で、白澤さんが趣味人であることは十分に理解できたと思う。インテリアとして置かれているアンティークも、ウェルシュドレッサー(食器棚)は1930年代の英国製。ターンテーブルの置かれたオーディオラックは、フランス人がデザインしたという東南アジアのアンティークなど、随所にセンスの良さがうかがえる。

「入り口にある本棚は、出版をしたりや古書や雑貨を扱ったり、イベントやリノベーションなども手がけるホホホ座(京都)の松本さんに作っていただきました。本のセレクトもお願いしたんです」

On a slow boat to ...の写真7

行き先はあなた次第 …

珈琲のみならず、パートナーのよしこさんお気に入りの和紅茶(日本で作られている紅茶)や自家製のスコーンにチーズケーキ。さらにはスパイスから調合した自家製ドライカレーや、馬場FLATの角食パンを使ったバタートーストといった軽食も美味。

店名はジャズ・スタンダードの「On A Slow Boat to China」、そして村上春樹の短編小説集『中国行きのスロウ ・ボート』からヒントを得て、行き先はあなた次第という意味を「…」に込めた。まさにゆっくりとくつろぐのに最適な場所となっている。

「いずれは毎週土曜にライブをやっていきたいです。プロジェクターもあるので、アルテックのスピーカーから音を出しながら、ライブ配信のサテライト会場みたいな使い方もしてみたいですね」

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥

On a slow boat to ...の写真8


・店名 オン ア スロウ ボート トゥ …
・住所 東京都千代田区猿楽町1-5-20 田端ビル1F
・営業時間 10:00~22:00、12:00~22:00(土曜・祝日)
※コロナ禍は営業時間が変わりやすいため下記SNSでご確認ください。
・定休日 日曜、月曜
・HP https://slwboat.com/
・Facebook https://www.facebook.com/slwboat/
・Twitter https://twitter.com/slwboat2
・Instagram https://www.instagram.com/slwboat/

その他の連載・特集