投稿日 : 2020.03.31

南 里沙 ─ジャズから演歌まで…ハーモニカに導かれてジャンルを越境中【Women In JAZZ/#19】

インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/西田周平

南 里沙 インタビュー

人類が初めて宇宙空間で演奏した楽器はハーモニカだという。1965年12月に打ち上げられたアメリカの有人宇宙飛行船ジェミニ6-A号。船長のウォーリー・シラーは隠し持っていた私物のハーモニカで「ジングルベル」を吹き、周囲を驚かせた。船内にこっそり持ち込める楽器としてハーモニカは打ってつけだったのだ。

もちろん現在でも、誰もが一度は手にしたことがある“手軽な楽器”の代表格。しかし、彼女の演奏を聴くと、ハーモニカは高いポテンシャルを持つ、立派な吹奏楽器であることを思い知らされる。ハーモニカ奏者の南里沙が使うのはクロマチック・ハーモニカ。彼女はこの楽器を駆使し、世界中のステージに立ち、驚きの演奏を繰り広げている。

オーボエから異例の転向

──クロマチック・ハーモニカを演奏するようになったきっかけは?

もともとはオーボエを演奏していましたが、大学のときにクロマチック・ハーモニカと出会って。その深い音に惹かれました。ハーモニカという楽器は、誰でも買ったその日から音が出せる楽器です。ただ、極めようと思えば思うほど、この楽器の深さや難しさに気づかされる。すごく奥が深くて、味のある楽器なんですね。

──オーボエからハーモニカに転向するのは珍しいと思うんですけど、楽器としての共通点はあるんですか?

どちらもリードを振動させて音を出す、という点は似ているのかもしれませんね。ただしハーモニカは吹いても吸っても音が鳴る。これが最大の特徴とも言えます。他の管楽器では、吸って音を出すことはないので、まったく新しい楽器を始めるような気持ちでスタートしました。

──ハーモニカの演奏をはじめた当初は、どんな曲を演奏していたのですか?

オーボエをやっていた頃はクラシック一本でしたが、ハーモニカを始めるようになってからは、ジャズ、ポップスから演歌まで、いろいろなジャンルを聴くようになって。ハーモニカのおかげで、広く音楽を知ることができた。そこはハーモニカに教えてもらいましたね。

──ハーモニカもいろんなタイプがありますよね。

そうですね。一般的によく知られているのは、小学校の音楽教育で使用される “教育用ハーモニカ” です。ほかにも、複音ハーモニカ、バス・ハーモニカ、コードを鳴らすハーモニカなど、ほんとうにたくさん種類があって、それぞれに魅力があるんです。

──南さんが使っているクロマチック・ハーモニカは、どんな特性があるんですか?

「クロマチック」とは半音階という意味。つまり、半音を含めたすべての音が並んでいるので、単旋律を奏でるのが得意な楽器です。そういう点ではメロディ楽器であるオーポエと共通点があるのかもしれません。美しいメロディを奏でるということに特化している楽器なので、そこに私は惹かれたんだと思います。

初めてのジャズアルバム

──最新アルバム『RISA Plays JAZZ』ではジャズを題材にしていますね。

これまでに4作の『RISA PLAYS』というアルバムのシリーズを出していて、アルバムごとにさまざまなジャンルに挑戦しています。シリーズ5作目となる今回はジャズをテーマにしました。ジャズはこれまでも演奏してきましたが、ジャズだけに絞ったアルバムは今回が初めてです。

『RISA Plays JAZZ』(キングレコード)

──お酒が似合う音。ワインとか。

飲みたいなっていう感じになりますよね(笑)。誰でも一度は聴いたことがあるようなスタンダードから、ちょっとマニアックなジャズまで、いろいろと盛り込めたと思います。

──ジャズやポップスを演奏する上で、お手本になるプレイヤーは?

トゥーツ・シールマンスやスティービー・ワンダーのプレイは勉強になりますね。音色の作り方や、間の取り方、フレーズなど学ぶことは多いです。同時に、この二人はクロマチック・ハーモニカの魅力を世界に知らしめた功労者だと思います。

──ポピュラー音楽では、ブルース・ハープもよく使われますね。

ハワード・レヴィというブルース・ハープ奏者。彼の演奏は大好きですね。音色のバリエーションが豊かで、本当に驚かされます。

──日本でクロマチック・ハーモニカといえば、西脇辰弥(注1)という名手がいます。

先日、佐藤竹善さんのツアーに参加させていただきました。初日のゲストが西脇さんで、2日目が私だったんです。1日目に出演した西脇さんのステージも拝見して、そのあと楽屋で、西脇さんとハーモニカ談義をさせていただきました。チューニングの話とか、リードの削り方とか。濃い内容でした…(笑)。

注1:西脇辰弥/にしわきたつや20代からキーボード奏者、アレンジャー、プロデューサーとして活動。サウンド・プロデューサーとして谷村有美、爆風スランプなと多くのアーティストを手がける。またクロマチック・ハーモニカ奏者としても様々なアーティストと共演し、その実力をトゥーツ・シールマンスに認められる。2005年には日本ハーモニカ賞を受賞。

演奏前に苺は禁止?

──ハーモニカの演奏は唇を酷使しますよね。

演奏時は唾液を使って唇を滑らせるんですね。なので、乾燥しやすい冬場は、きちんと唇をケアしないと演奏に支障が出ます。

──唇のスライドを円滑にするために、何か塗ったりすることも?

何も塗りません。ワセリンなどを塗ってしまうとネバネバしてしまって、うまくスライドしないんです。ステージではメイクもするので、せっかくだから口紅も塗りたいんですけどね(笑)。ただし、演奏後には必ずリップクリームを塗っています。

──演奏時に気をつけていることは?

甘いものは禁止です。歯磨きが大事!

──その理由は?

ハーモニカの内部にはバルブという紙製のパーツが入っているんです。これは息の漏れや空気のロスを防ぐための大事な機構なんですけど、甘いものを食べたり飲んだりした後に吹いてしまうと、甘い成分でバルブがくっ付いてしまうことがあります。あと、苺のタネや胡麻もリードに詰まってしまうトラブルに繋がるので注意ですね。

──デリケートな楽器なんですね…。

食べ物だけでなく、髪の毛もマウスピースの穴に入らないように気をつけます。クロマチック・ハーモニカには、音階をコントロールするボタンがついているんですが、ボタンを押すときに髪の毛が引っかかることもある。演奏の邪魔にならないように、ヘアスタイルはアップにすることが多いです。

──南さんは、ハーモニカのアジア大会で審査員もやっていますね。

はい。ハーモニカは世界中で愛される楽器ですが、アジアは特に盛んです。アジア大会は3千人以上集まります。私自身、ハーモニカを始めて、こんなにも海外で演奏する機会があるとは思っていませんでした。

しかも、いろいろな国で南里沙のハーモニカを待ってくれている人がいるのは不思議な気持ちです。だから、できる限り足を運んで、ハーモニカの音色を届けたい。「ハーモニカってカッコいいな」って思ってくれる人が1人でも増えて、この楽器を始めるきっかけを作れたら嬉しいですね。

南 里沙/みなみ りさ(写真左)
3歳でピアノ、12歳でオーボエを始め、大学在学中にクロマチック・ハーモニカに出会う。国内・国際コンクールで数々の優勝を果たし、2013年に『Mint Tea』でメジャー・デビュー。その後もクラシック、ジャズ、ポップス、歌謡曲など数多くのアーティストと共演し、ドラマ、CM、ゲーム音楽などにも参加。2014年からは様々なジャンルに挑戦するアルバム『RISA Plays』シリーズもスタート。2018年にはスマートフォンのテレビCMに出演して話題となる。【南里沙 オフィシャル・ホームページ】https://minamirisa.com/
島田 奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー/写真右)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

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