投稿日 : 2024.04.26
【神奈川・小田急相模原/bar la cassette】プロの本気をゆるく楽しめる カセットテープ専門のミュージックバー
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
MENU
「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は小田急相模原(神奈川県座間市)にあるカセットテープ専門のミュージックバー『bar la cassette(バー ラ カセット)』を訪問。ここは音響のプロによるカセットテープサウンドの実験場 兼 憩いの場でした。
ヴィンテージオーディオ屋さんがカセットバーをオープン
相模原にはJRの相模原駅と小田急相模原駅がある。しかし、これが想像以上に離れていて間違えると少々面倒なのだ。もし間違えてしまうと、町田駅を経由し、乗り換えなどを含めると30分くらいかかってしまう。『bar la cassette(バー ラ カセット)』は、小田急相模原駅 南口から徒歩約3分の座間市エリア、ちょっぴり怪しい小道の雑居ビル1F奥にある。
グランドオープンは2023年9月、業界では有名な代々木(東京都)と愛川(神奈川県)にあるヴィンテージオーディオ店『Vintage Join(ヴィンテージ ジョイン) 』を経営するキヨトマモルさんのお店であり、本人が切り盛りしている。
「自分も中学生の頃はレンタルレコードを借りてカセットテープにダビングしていたので愛着があるんです。でも、当時ちゃんといい音で鳴らせていたのかは疑問があって。なので、今の自分の知見を使ってカセットテープをもう少し煮詰めて、いい音にしてみたいと思ったのがきっかけです」
『Vintage Join』は、本連載にも登場している『家鴨社』や『B-10』など、多くのミュージックバーにシステムを入れている。レコードバーはすでにそれら多くの名店があることも、カセットテープに絞った理由のひとつだと語る。
「カセットテープが流行っていると言われていますけど、実際にどれくらい広まっているかわからないところがありますよね。カセットの音を聴ける場所もないですから。バーなら行きやすいですし、実際に聴けて、間口も広がるだろうなと思ったんです」
それにしても、なぜ小田急相模原でカセットテープ・バーを始めたのだろう。
「よく言われます(笑)。深い意味はなくて、家がこっちのほうなんで小田急線沿線で探していたんです。代々木店からの帰り道ということで、最初は新百合ヶ丘で見つけたけどダメで、次は和泉多摩川、3軒目がたまたまココだったんです」
カセットテープに 高性能なスピーカーは必要ない
店内はカウンター9席にテーブル6席と広め。入口近くの壁には中古のカセットテープやカセットをモチーフにした雑貨が並べられ、気軽に購入することができる。内装はシンプルで、テーブル席のチェアはカッシーナ、カウンタースツールはラパルマと、こだわりのアイテムで揃えられている。
「スピーカーはポーランドの1960年代のフルレンジに、Vintage Joinオリジナルの箱を使っています。カセットデッキはソニーのものと、2024年4月に発売したVintage Joinオリジナルのデッキを併用しています」
Vintage Joinオリジナルのカセットデッキ(3万5000円)は、初期ロットとして12台を作成したが1週間を経たずに完売した。そのうち、『bar la cassette』のお客さんで5台売れたというから、すでにこの場所からカセット文化が醸成されていることがわかる。
「2000年頃のカーオーディオのプレーヤーをベースに改造して、音質的に改良しています。古いカセットテープは固着して回りにくいことがあるのですが、カーオーディオ用はトルクが強いので多少固まっていても再生できるんです」
カセットテープに興味を持った際は、どんなシステムで鳴らすのがいいのかも聴いてみた。
「スピーカーが大事ですね。でも、ツイーター搭載とか高性能なものは意味がないんです。カセットテープは音域がかまぼこ型で中域が太いので、それに合ったスピーカーとアンプを選ぶのがいいと思います」
そう考えると、昔のラジカセはカセットテープに最適な構成だったことがわかる。
安心して楽しく聴ける カセットテープサウンド
地元の人はまだそこまで多くはないというが、若い女性からシニアまで幅広く訪れるという『bar la cassette』。若い世代はカセットテープの音をどのように感じているのだろうか。
「よく言われるのは、カセットテープってこんなにいい音なんですねということ。あとは、聴きやすい、聴いていて安心すると言われます」
実際、ここではカセットテープとは思えない良い音で聴けるものの、レコードほどシビアでないこともあり、難しいことを考えずに音楽が楽しめる。ゆえにリラックスすることができ、思わずお酒も進んでしまう。ノンストップMIXで音楽をかけるわけでもなく、片面が終わると巻戻しを挟んで次のアルバムがかかるなど、その牧歌的な時間も味わい深さとなっている。
お客さんの好みを聞きながら、店内ではジャンルレスな音楽が流れていく。販売している中古のカセットテープを流してもらったり、持参したテープをかけてもらうことも可能だ。
お酒の種類も豊富で、ウイスキーは小田急相模原駅周辺では随一ともいえる品揃えで梅酒も豊富。季節によって変わる料理も用意され、春メニューであれば春キャベツのステーキ、イワシのぺぺロンチーノ生パスタ、チョリソの赤ワイン煮、骨抜きソーセージとお酒に合うものが揃う。
「ここが毎日忙しくなると昼間の仕事ができないので、のんびりやっています。カセットテープ屋さんがバーをやっている感じですね」
2〜3年後にはこの店が一番音の良い場所になっている!?
月に1回は、カセットテープDJの大江戸テクニカ氏によるイベントを開催。その日は満席になるとか。最後に、今後の展望を聞いてみた。
「カセットテープの音をまだ煮詰め切れていないので、お店と一緒に進歩していきたいです。オーディオ屋さんが意識してカセットテープを鳴らしているので、2〜3年後はここが一番音が良くないといけないですよね(笑)。
あとは、カセットテープ文化を若い人につないでいきたい。そのために各種イベントにも積極的に出店していて、カセットテープを目に触れる機会を増やしています」
『Vintage Join』にはマニアックなお客さんが多いだけに、普通の人が訪れる『bar la cassette』での交流が新鮮で楽しいと語るキヨトさん。全国的に珍しいカセットテープ専門バーから、独自の新しい文化が生まれそうな予感ヒシヒシ。ぜひ一度足を運んでみてほしい。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 バー ラ カセット
・住所 神奈川県座間市相模が丘5-1-25 南海ビルno.14 A-102
・電話番号 042-705-6760
・営業時間 18:30〜23:00 L.O.(水・木曜)、19:00〜23:00 L.O.(金・土曜)
・定休日 日〜火曜
Instagram:@bar_la_cassette