投稿日 : 2021.03.26

【東京・大森/ROALEANS COFFEE & BAR】1920年代のアメリカをゆったりと味わえるお店

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

ROALEANS COFFEE & BARの写真8、ローリンズ コーヒー&バーの写真8
いつか常連になりたいお店 #56

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は京浜急行の大森海岸駅(東京都太田区)からすぐ、JR大森駅東口からも徒歩約8分の位置にある『ROALEANS COFFEE & BAR(ローリンズ コーヒー&バー)』を訪問。2019年5月オープンの同店は、アンティークに囲まれた空間でありながらも重苦しさはなく、誰とでも気軽に素敵な時間を共有できるスポットでした。

ROALEANS COFFEE & BARの写真1、ローリンズ コーヒー&バーの写真1

店内のアンティークはすべて整備済で使用可能

『ローリンズ コーヒー&バー』のWebサイトには、「蓄音機とヴィンテージオーディオが奏でるノスタルジックな音楽と、1920年代アメリカを彷彿とさせるアンティークの品々に囲まれて過ごすひととき」という文言がある。ここだけを抽出してしまうと、どこか埃っぽい、頑固なマスターのいるお店を想像してしまう。しかし、駅前にある雑居ビル9F(最上階)という立地も含め、扉を開けた瞬間に感じるのは懐古趣味でありながも親しみやすい雰囲気だ。

「キャビネットなどインテリアの多くはアンティークです。でも、計7台ある蓄音器はもちろん、古いミシンやカメラ、映写機もすべて整備してあるので使える状態になっています。ただの飾りとして置くことだけは絶対にやりたくなかったんですよ。実働するからこそ放つ力や魅力があるんです」。そう語るのは店主の嶋竹 薫さんだ。

ROALEANS COFFEE & BARの写真2、ローリンズ コーヒー&バーの写真2

アンティークに囲まれているにも関わらず、どこか明るい雰囲気があるのは、置かれているものすべてが現役であることが大きい。ゆえに、日常との接点を持ったまま1920年代にタイムスリップでき、誰もがオシャレな飲食店として気軽に来店できる。

「実際、うちのお客さんは若い女性が多いんです。一方でシニアの方も来られますし、近隣にお住まいの方を中心に年齢層は幅広いですね」

しながわ水族館の最寄り駅であり、大小さまざまな会社、さらには大きな住宅街も抱える大森海岸駅周辺。お店の数こそ多くはないが、JR大森駅にも近いこともあり寂れた雰囲気は一切ない。コロナ禍で会社員のお客さんは減ったというが、代わりに近隣の住民が増えるなど穴場の立地といえる。

「もともとはグラフィックデザインの会社を大阪でやっていて、取引先が東京に移転するタイミングで2003年に大井町に住み始めたんです。店を始めるなら土地勘があるところがいいと思って、大井町や大森の周辺で探したというわけです」

ROALEANS COFFEE & BARの写真3、ローリンズ コーヒー&バーの写真3

ツーリング途中に入った喫茶店で出会った蓄音機

最近は軸足をお店に移し始めているというが、嶋竹さんは現在もグラフィックデザインの仕事を続けている。マネージャーとして働く有馬竜次さんもまた、会社の部下でありデザイナー。そんな経歴の嶋竹さんが、なぜ飲食店を始めることになったのだろう。

「バイクが趣味で、10年ほど前にツーリングで秩父に行ったんです。そのときにたまたま入った民芸喫茶で、ここにもあるHMV-163という蓄音機があったんです。そこで初めてSP盤の音を聴いて衝撃を受けたんですよ。それが11月の出来事で、その冬には卓上型の蓄音機を買って、毎週末のように骨董屋や骨董市を巡るようになりましたから。完全にのめり込みました(笑)」

ROALEANS COFFEE & BARの写真4、ローリンズ コーヒー&バーの写真4

嶋竹さんは中学でギターをたしなみ、高校でハードロックを聴き、大学で映画とジャズに出会う。

「映画『タクシードライバー』がきっかけで、トム・スコットのアルトサックスに魅了されたんです。そこから同じウエスト・コースト・ジャズのアート・ペッパーなど、ハード・バップからモダンジャズ全般を聴くようになっていました。なので、当時は蓄音機の時代であるビッグバンドやニューオーリンズ・ジャズなどは一切聴いてないですし、ジャズじゃないと思っていたほどです」

その後、デザイナーという職を選んだことで多忙な日々が続き、たまにライブにいく程度で音楽からは離れてしまったという。そんな中で偶然出会ったのが、ツーリング中に触れ合った蓄音機体験だった。

音楽を鑑賞するというより、その時代にいるような感覚になる

「昔から、本当は古いものが好きなことはわかっていたんです。でも、若いうちから古いものが好きだというのは嫌だったんです。アンティークの世界が沼だということもわかっていましたし、デザイナーという職業柄もあって最先端を目指すべきだと思っていました。でも、蓄音機と出会ったことで心の中に留めていたものが弾けたんです。古き良き時代をリアルに再現している感覚。鑑賞というよりは、身体で感じる感覚です」

蓄音機を始め、アンティークに対する思いを具現化させていくなかで、「古いものは消えてなくなっていく運命、それならばできるだけ多くの人に見て聴いてもらいたい」と思うようになる。その選択肢がコーヒー&バーだったのだ。

店名は、第一次世界大戦後のアメリカの繁栄を意味する『ローリング・トゥエンティーズ(狂騒の20年代)』『ニューオーリンズ』を合わせた造語にした。

ROALEANS COFFEE & BARの写真5、ローリンズ コーヒー&バーの写真5

美味しくて、見た目も良くて、クオリティの高いものを提供したい

「店内は思い描いていた世界観を一年がかりで作り上げました。大事にしているのは、美味しくて、見た目も良くて、クオリティの高い食事を提供すること。脱サラして始めましたというような中途半端な食事やドリンクを出すのは絶対に嫌だったんです。スイーツもすべて自家製で、ありがたいことに大変好評をいただいています」

音楽をメインとするお店のように見えるが、あくまでもベースは飲食店だという思いがある。

「ジャズは詳しくないけれど雰囲気は好き、という人に上質なものを提供したいんです。なので、音楽と真正面で対峙するような空間にはしていません。『いい音だね』と言われるよりも、『いい時間を過ごせました』と言われるほうが嬉しいですね」

店内は蓄音機(SP盤)だけでなく通常のレコード盤でも音楽が流れる(忙しいときはデジタル音源も使う)。音響機器は、ターンテーブルにトーレス、パワー・アンプはマッキントッシュのMC2100、プリアンプに同じくマッキントッシュのC-28。それをJBLのL54スピーカーで響かせている。スタジオモニターではなく、ヴィンテージとはいえ民生用のスピーカーにしたのはゆったりとした時間を演出するためだ。

ROALEANS COFFEE & BARの写真6、ローリンズ コーヒー&バーの写真6

「オープン当初はビッグバンドとニューオーリンズ・ジャズが多かったですが、モダンジャズを求められるお客さまもいますし、最近はいろいろなものをかけています。自分がディズニー好きということもあって、若いお客さんが来られたときには、ディズニーの古いサントラ盤やジャズアレンジみたいなものもかけます。来店される方の雰囲気を見ながら選んでいます」

最後に今後の展望を聞いた。

「ここで朗読会をやりたいという方がいらして、それは面白そうだなと思っています。あとは、ワークショップもされている近所の花屋さんと、『お花とジャズと珈琲』みたいなコンセプトの時間を提供したりもしていきたい。そんな風に、いろんな切り口でジャズに親しんでもらえる機会を増やしていきたいと思っています」

ROALEANS COFFEE & BARの写真7、ローリンズ コーヒー&バーの写真7


・店名 ローリンズ コーヒー&バー
・住所 東京都大田区大森北2-17-2 αNEXT大森海岸9F
・営業時間 13:00~23:00
※緊急事態宣言中は念のためHPやSNSでご確認ください。
・定休日 月曜(祝祭日の場合は翌火曜)
・HP https://roaleans.com/
・Instagram https://www.instagram.com/roaleans/
・Twitter https://twitter.com/ROALEANS

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