投稿日 : 2021.12.24

【東京・あきる野市/Cafe ToRamona】レコードコレクターによるピュアな音楽喫茶

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

カフェ トラモナの写真8
いつか常連になりたいお店 #65

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2018年オープンの音楽喫茶『Cafe ToRamona(カフェ トラモナ)』を訪問。アメリカやイギリスを中心としたフォークやSSW(シンガーソングライター)に関する幅広い知識とレコードストック、そしてフレンドリーな接客が心地いいお店でした。

引退後の道楽として、レコードが聴ける珈琲屋をスタート

住宅と畑が点在するのどかな場所に『Cafe ToRamona(カフェ トラモナ)』はある。JR五日市線・東秋留駅から徒歩約15分、青梅線・福生駅から徒歩約25分(バスで約10分)、外観からはカフェだとわからないアパート1Fの扉を開けると約4500枚のレコードが棚にずらりと並んでいる。その他、テーブルや椅子、奥にカウンターというシンプルな作り。音楽好きのオーナーが趣味で始めたことがわかる作りだ。

カフェ トラモナの写真1

「もともとは堅めの出版社で校正や編集の仕事をしていて、定年後もそこで働いていたんです。その後に親が住んでいた家をアパートに建て替えることになって、せっかくなんで音楽喫茶をやってみようかと。ひとことで言えば ”道楽”です」と、1954年生まれの店主・浦野茂さんは笑う。

店名はボブ・ディランの名曲「To Ramona」から名付けてカタカナ読みにした。浦野さんはグループサウンズなどの歌謡曲から始まり、子どもの頃から音楽は好きだったという。

「中学生の頃、八王子市民会館に高石ともやさんと岡林信康さんのコンサートを観に行って。その日のゲストが高田渡さんと五つの赤い風船でした。以来、関西系のフォークやはっぴいえんどなど日本語のロックを聴くようになったんです。当時からボブ・ディランやジョーン・バエズなども好きで…。ニール・ヤング、クロスビー・スティルス&ナッシュ、ジェームス・テイラー、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルといったSSW(シンガーソングライター)がたくさん出てきた時代です」

カフェ トラモナの写真2

深みにハマるきっかけとなった、渋谷のブラックホーク

そこからさらに深く追及するようになったのは大学時代。足繁く通っていた渋谷にあったロック喫茶『ブラックホーク』の影響が大きい。同店はかつてジャズ喫茶だったが、60年代終わりからロックをかけるようになる。レッド・ツェッペリンやディープ・パープルなどはかからず、レコード係でのちにロック評論家となる松平維秋氏の先導のもと、土臭いサウンドが多く流れるようになった。

「まだまだですが、ブラックホークのような店を目指しているんです。当時、ブラックホークではカナダの軽いサウンドから片面ずつかけていき、アメリカの都市を回りながら徐々にアメリカ南部のスワンプになってサウンドも重くなり、イギリスのSSWやトラッドに行くという選曲がされていたんです。サウンドの軽さや重さを移行しながら2時間で1周する。それを真似たプレイリストも10個ほど作っていて、お客さんが多くて針が落とせないときはそちらを流したりもします」

ブラックホークへのオマージュともいえるプレイリストは、同店が発行していた小冊子『Small Town Talk』11号(1977年に発行)で特集された99枚の推薦盤からセレクトしている。もちろん、浦野さんは99枚すべてをコンプリートしている。

カフェ トラモナの写真3

会話を楽しみながら、おすすめのレコードを聴かせてくれる

『トラモナ』に集まるお客さんは、近所の高齢者や散歩ついでの夫婦、遠方からやってくる旧知の音楽仲間、ホームページを見てやってくる若者が中心。音楽好きが来店した際は、新譜からおすすめを中心にセレクトし、会話を楽しみながらその人が好きそうなものをかけていくという。

「最近も若い人に金延幸子さんを紹介したら気に入ってくれて、すぐにダウンロードしていました。そういうやりとりは楽しいですね」

カフェ トラモナの写真4

2018年のオープンから3年経った現在の感想を聞くと。

「好きな音楽をずっと聴けて極楽ですよ。現役で働いている方は大変だな~って思います。とくにこのコロナ禍はね」

第二の人生の幕開けとして誰もが憧れる姿だ。柔和で人当たりのいい浦野さんは、音楽への愛情が深いにも関わらず自分の好きなものを押し付けることもない。それは、常に新譜をチェックし続け、今なお探求しているからかもしれない。そこで最近のお気に入りを3枚選んでもらった。

カフェ トラモナの写真5

「(写真中央)マイケル・ハーレーは、60年代からやっているフォークシンガーで若い人たちからもよくカバーされています。80歳ですが現役、最新アルバムの『The Time Of The Foxgloves』は12年ぶりのスタジオ録音です。ジャケットの絵も自分で描いているんですよ。
(写真左)アンドリュー・ガバード『HOMEMADE』は、ジャケットを見たときにボビー・チャールズを意識しているなと思って聴いてみたんです。内容はビートルズやビーチボーイズのようなポップな感じでいいですよ。
(写真右)ジェリー・デイビット・デシッカ『The Unlikely Optimist & His Domestic Adventures』は、アートワークを私が好きなジェブ・ロイ・ニコルズがやっているんです。ゲストにオージー・メイヤー。テックス・メックス大会と思いきや内省的なSSWらしいアルバムになっています」

英国のサイトやバンドキャンプで新譜をチェック

新譜情報は、いつもチェックしているイギリスのフォーク系サイトや、バンドキャンプから探すことが多いという。アーティストの派生から聴くことも多く、ジェフ・マルダーの新しいアルバムをメトロポール・オーケストラのGert-Jan Blomがプロデュースしていることから、挾間美帆の『The Monk : Live at Bimhuis』を購入したなど、音楽マニアらしい広げ方をされている。

「このお店にあるのはディランとニューヨークやボストン周辺のフォーク。あとはザ・バンドとベアズヴィル周辺。それとバーズ、バッファローからCSN&Yへの流れに、アサイラムやバーバンクのSSWと70年代のスワンプ系。その他にはメンフィスやマスル・ショールズで録音されたソウルなどなど。そしてイギリスではアン・ブリッグスやフェアポートなどのトラッドのほかニック・ドレイク、アーニー・グレアムなどのSSWもあります」

カフェ トラモナの写真6

このままだと音楽の話ばかりになってしまうので、飲食メニューの話も聞いてみた。

「珈琲は近くの五日市で自家焙煎されているオノトコーヒーさんから仕入れています。あと、高田渡さんとも一緒にやっていたフォークシンガーのシバさんが陶芸をやっているのでカップを作ってもらったんです。そのカップでイノダコーヒーが飲めるメニューもあります。高田渡さんの<コーヒーブルース>の歌詞にはイノダが出てくるでしょ?」

どこまでも音楽道楽な浦野さん。ここで出てきたアーティストや音楽ジャンルにピンときた方は、たとえ遠方でも足を運ぶ価値のあるカフェといえる。

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥

カフェ トラモナの写真7


・店舗名 カフェ トラモナ
・住所 東京都あきる野市草花816-1 ラルジュ・アー101
・営業時間 10:00~19:00
・定休日 木曜
・HP https://cafetoramona.com/
・Facebook https://www.facebook.com/cafeToRamona/

その他の連載・特集