2019.06.12

【review】ふたりの女性シンガー・ソングライターから探るジャズとポップスの境目(そんなものはない)

タイトル
「ばけもの」「シネマティック」
アーティスト
Nakamura Emi / 大和田慧

松任谷由実や竹内まりや、宇多田ヒカル、椎名林檎などの例を挙げるまでもなく、1970年以降のミュージック・シーンには少なからず女性シンガー・ソングライターの果たしてきた役目があった。彼女たちのスタイルは同時代に波及し、後進に影響を与えながら、いまなお進化し続けている。そんな系譜の突端で活躍する者は多くあれど、大和田慧(おおわだ けい)とNakamura Emiが同世代からひとつ飛び抜けているといって否定する者は少ないだろう。


大和田は、ニューヨークのアポロシアターで定期的に行なわれているイベント「アマチュアナイト」でTOP DOG(準決勝)まで勝ち抜いた実力派。キャロル・キングを想起させる、じわりとしみ込んでくるようなサウンドでファン層を広げている。活動を始めて間もなくMONDO GROSSOにボーカリストとしてフィーチャーされたというエピソードからもその実力が知れるだろう。

アルバムに先駆けて発表された「クロージング・タイム」のミュージック・ビデオは、監督に丸山健志を、主演男優にNHK連続テレビ小説『なつぞら』の出演で話題を呼ぶ清原翔を起用したショート・ムービー風のもの。過度な派手さがないのに、強烈なインパクトを残すのは音と映像がうまく相乗効果を生んだ結果といえる。

一方のNakamuraは歌とラップの間を縫うようなプレイスタイル得意としている。Ego-Wrappinの中納良恵にも似たパワフルな歌唱で、自分の心境をストレートに音楽へ乗せてみせる。テレビドラマの主題歌にも採用された「ばけもの」は、建前に塗り固められた女性の内面を描き出したもの。シリアスになり過ぎず、ポジティブに状況を切り取っていく歌詞は彼女ならではのものだろう。

ここ最近、大和田は3年ぶりのフル・アルバム「シネマティック」を、Nakamuraは2月の6thアルバムから立て続けにEP「ばけもの」をそれぞれリリースした。前者でプロデュースを務めるのは、挾間美帆(cond)との共演やCRCK/LCKSの活動で注目される鬼才・小西遼。対するNakamuraはYasei Collectiveの中西道彦(b)、JUJU(vo)やMISIA(vo)などのサポートでも知られるTOMO KANNO(ds)といった面々で脇を固めるなど、両者ともジャズを感じさせる瞬間が随所に聴いて取れる。

用意された歌を歌うのではなく、日々の生活から歌を生み出し、表現することで聴く者の心をゆさぶるシンガー・ソングライター。果たして彼女たちの「歌」とはなんだろう。このふたりを聴く限り、Jポップを歌おうとはしていないし、ジャズなんて特に意識もしていない。魂の吐露、希求、慟哭——原初の感情がストレートに表現された時、そこにジャンルなど必要なくなるのではないか。両作とも、現代に生きる女性の等身大が音楽としてうまく発露した好例だ。


「シネマティック」
大和田慧
Sam’s Up SMU-1002 ¥2,000(tax in)


「ばけもの」
Nakamura Emi
日本コロムビア COCA-17638(通常盤)¥1,204(+tax)