投稿日 : 2017.08.04 更新日 : 2021.10.07
ビル・エヴァンスのメガネ【ジャズマンのファッション/第1回】
取材・文/川瀬拓郎
さて、結局「ビル・エヴァンスのメガネ」ではなかったが、タート社のメガネは、同時代の多くのミュージシャンや俳優たちに愛されていたようだ。往年のジャズマンの中にも、その愛用者はいたようで、タートを着用していると思しきジャケット写真も多数確認できる。例えば、ユセフ・ラティーフやジェームス・ムーディーのジャケット写真に見られるメガネは、タート社のFDRというモデルに極めて近い。
先述の“アーネル”らしきものもいくつか発見できるが、(今回のビル・エヴァンスも同様)他メーカーからも似たシェイプの製品が多数発売されており、また、細部まで目視できないジャケ写も多いので、確実にブランド(およびモデル名)を特定できるケースは稀だ。
ちなみに、今回の検証に協力してくれたショップ「ソラックザーデ」では、タートのアーネルについても、20種類にも及ぶサイズバリエーションが保管されているおり(2017年7月上旬取材時)、希少なデッドストックから自分の顔型に合う、理想の一本を見つけることができるはずだ。もちろん、それなりの出費と手間を覚悟しなければならないが…。
さて、タート社のメガネについて、もうひとつ選択肢があることもお伝えしておこう。メーカーとしての歴史は70年代に終焉しているが、近年でもジョニー・デップがヴィンテージのタートを愛用するなど、その人気は衰えていない。そんな折(なんと今年の春)に、創業者ジュリアス・タート氏の甥にあたるリチャード・タート氏(※2)の協力によって「ジュリアス・タート・オプティカル」が創立されたのだ。
吉祥寺(東京都武蔵野市)井の頭公園入口近くにあるショップ、ザ・パークサイド・ルームでは、この新ブランドをほぼフルラインナップで取り揃えている。広報の根本氏と店長の志岐氏に、このブランドについて訊いた。
「ヴィンテージは保存状態によって、かなりの個体差があります。皆さんがセルフレームと呼んでいるものの多くはアセテートという素材が使われていますが、この素材の特性として、何十年も経つと油分が抜けて形状が変化してしまうこともあり、非常にデリケートです。その点、ジュリアス・タート・オプティカルの復刻版であればそうした心配もなく、ラフに普段使いしたいという人に最適です。ジュリアスはアメリカン・カジュアル好きの40代の方に特に人気が高いのですが、このビル・エヴァンスのようにスーツに合わせるのもかっこいいですよね」(志岐氏)
同店では、こうした復刻版だけでなく、ヴィンテージをリメイクした製品も扱っている。
「当時の“本物”にこだわる方には、デッドストックやヴィンテージを再構築して生み出されたタートもあります。これはアンティーク・アイウェアの収集家であるジェイ・オーウェンズ氏が手がける“ザ・スペクタル”というブランドで、おもにアメリカン・オプティカル、シュロン、ボシュロムといった米大手ブランドのデッドストックやヴィンテージパーツを元に、卓越したレストア技術で現代に甦らせるプロダクトです」(根本氏)
2015年のアカデミー賞ではジャズドラマーを主人公にした映画『セッション』が3部門で受賞。さらに今年は同監督の映画『ラ・ラ・ランド』でライアン・ゴズリングがジャズピアニストを演じ、ここ日本でも大ヒットを記録。同じく、イーサン・ホークがチェット・ベイカーを熱演した『ブルーに生まれついて』や、マイルス・デイヴィスを題材にした『MILES AHEAD』など、オールドスクールなジャズに大きな注目が集まるなか、あのタートがジュリアス・タート・オプティカルとして生まれ変わったのは、偶然ではなく必然なのかもしれない。
注釈 ※2 ジョニー・デップが愛用したことで、一気にその名が広まったタート。ジョニーにそのデッドストックを販売し、LAでフォー・ユア・アイズというヴィンテージショップを経営していた(現在は閉店)のがデヴィット・ハート氏。2011年に彼がタートの復刻に携わったが、14年にはその復刻版も途絶えていた。
取材協力
●SOLAKZADE(ソラックザーデ)
東京都渋谷区神宮前4-29-4 Goro’s Bldg B1F
営業時間 15:00~20:00(水曜のみ完全予約制) 不定休
℡03-3478-3345
http://www.solakzade.net/
●The PARKSIDE ROOM(ザ・パークサイド・ルーム)
東京都武蔵野市吉祥寺南町1-17-1 バイオスフィア2F
営業時間12:00~21:00水曜定休、年末年始
℡0422-41-8978
http://www.tpr.jp