【review】「古き良き」ジャズをアップデートする4人の才能

2019.08.07

タイトル
ハイボール・パーティー
アーティスト
.PUSH(ドットプッシュ)
レーベル
アポロサウンズ
価格
2,700円
発売日
2019.08.07

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「ジャズは死んだ」「いや、死んでいない」という論争は今に始まったことではなく、マイルス・デイビスがエレクトリックに移行していた60年代にも(大半は彼への非難として)なされていたし、ジャンルの転換期には必ずと言っていいほど持ち上がるもの。けれど、マイルスが、コルトレーンがジャズを「殺した」のではなく「進化」させたことはすでに時代が証明しているわけで。彼らの登場をして冒頭の発言を繰り返す人がいるのなら、「(私の知っている古き良き)ジャズは死んだ」、または「(商業的に)ジャズは死んだ」のどちらかの意味であると考えて間違いない。前者は聴き手が新しい表現形態を受け入れることを放棄しているだけのことだし、後者は音楽そのものとはあまり関わりがない。音楽ビジネスが破綻しているという意味で「ジャズが死んだ」と述べるのであれば半分正解である。

しかし実際、ジャズは消滅するどころか、その意味を拡張しながら確かな脈動を刻んできた。ヒップホップと結びついたものもあれば、ポップスの中に溶け込みそのアイデンティティさえ変えてしまうものもある。そんなシーンにおいて、.Push(ドットプッシュ)は「古き良き」ジャズを現在の視点でとらえ直した特徴的なバンド。

エモーショナルなドラミングで注目を集める西村匠平(ds)。土岐英史(sax)も一目を置く中島朱葉(as)。東京藝術大学の作曲科を卒業して間もない異才・魚返明未(p/おがえり・あみ)。若手からベテランまで世代を超えた信頼を集める高橋陸(b)。いわば日本を代表する「今ジャズ」の面々が、西村を中心に集結したのが2016年のこと。

彼らの音楽はまぎれもない“ジャズ”だ。しかし、どの曲もメロディアスで聴きやすく、インプロヴィゼーションのクオリティも非の打ち所がない。ものんくるやCRCK/LCKS、WONKのようにジャズの方法論でポップな演奏に取り組む流れがある一方、ポップスのエッセンスを取り入れながらジャズをアップデートしている若手もいることを忘れてはならない。ジャズは暗く煙たいライブハウスにだけ偏在するのではなく、音楽に遍在していることを、彼らの音楽を聴いて改めて思い知らされる。

アルバムのラストを飾る「SAG〜始発、朝焼け、5時散歩〜」には”ものんくる”の吉田沙良(vo)がゲストで参加。これがジャズか/そうでないか、良いか/悪いかを判断するのはリスナー個人だ。他者の唱える一般論なんて、関係ない。ポップ・ミュージックの台頭により、たしかにジャズはオーバーグラウンドではなくなった。けれどそのDNAが形を変え、このように萌芽し続けていると捉えれば、それをリアルタイムで聴くことのできる私たちは幸せである……とも言えるのではないだろうか。

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